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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

第5章 「吊られし者」THE HANGED MAN


顕「まあ一同、取り敢えず餅搗(もちつ)いて。﨔木さん、あなたが殺生(せっしょう)の罪に問われる事はない。何故なら…」

﨔木「当たり前だよなぁ? 正義のための処刑なんだから! ふ…はっはっ!」

塔樹「…残念ダッタナ、﨔木君。私ワ、『テルテル』ダヨ…」

斎宮「無敎? どうしたんだ…え、おいマジかよ…無敎の、体が…」

生田「消え…た? そんな、どうして!」

 約一名を除く、その場の全員が絶句した。塔樹無敎の「死体」が、次第に半透明の存在と化し、遂には消滅したのである。血痕さえも綺麗に「蒸発」し、残されていたのは…トランプらしき一枚のカードだけ。

天満「これは、影武者…いや、幻影?」

生田「あの塔樹君は、偽者だって言うのか? でも、彼は僕らと一緒に行動し、戦って来たはず…少なくとも、昨日までは…」

﨔木「…そ、んな…」

 﨔木長門の様子を見ながら、寿能城代は声を整えた。

顕「小さい割に多くの電力を消費するスマートフォンは、先日の爆発以来、通信不能のままだ。でも、僕が使っているような旧式携帯電話は、設計が大幅に異なっているから、バグる構造も変わるんだよ」

生田「…先生、いきなり何の話ですか?」

顕「﨔木さんは先程、この遮光された窓を破壊するのに丁度良い角度から、レールガンを発射してくれた。その結果、砲撃と日射による急激な電磁波が発生し、エネルギーが集中した。それで一時的に、僕の携帯電話がつながったから、救難信号を兼ねたメールを、無事送信する事ができたよ。これを受信した同盟軍は、『村』の位置を特定し、アプリコーゼンに救援部隊を送って来るだろう…﨔木夜慧さん、もうこんな『ゲーム』は、お仕舞いにしよう」

﨔木「…でも、どうして…?」

顕「塔樹無敎をこのゲームに誘(いざな)ったのは、ほかでもないお手前だ。でも、無敎にとってゲームは得意中の得意、転んでもただでは起きない。置き残したトランプは、恐らくタロットカードだろう。そこに書かれている事が、きっと答えだ」

 茫然自失の﨔木長門に代わり、美保関少弐が、塔樹無敎のタロットカードを拾った。そこに書かれていたのは…。

天満「第12アルカナ『吊人』。第三の目は逆転せり。彼を討ち取りし者は敗北し、討たれし者こそ勝者と成る」

﨔木「…嫌だ、俺は負けない…死ぬのは貴様だァーッ!!」

顕「危ない! 伏せろっ!」
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