Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第5章 「吊られし者」THE HANGED MAN
﨔木「『人狼』は必ず、この中に居ます。俺は、それが誰かも知ってます。でも、その理由は言えません。言えば、『本人』は偽装しようとしますから」
生田「馬鹿馬鹿しい! そんな話、付いて行けないよ! 僕は本門寺に向かうから…あれ? 扉が開かない…え、どうなってるの?」
﨔木「逃げられないよ! 俺が、鍵を閉めたからなっ!」
斎宮「おいおい、勘弁してくれよ…そういう勝手な真似をするんだったら、俺達にも考えがある! そのガラス、防弾じゃないよな? んじゃ、無敎の銃で一撃だ…あれ、ない!」
﨔木「武器は、皆さんが起きる前に、回収させて貰(もら)いました。そして、今は…俺の手にあります」
天満「夜慧、レールガンを下ろしなさい! 如何なる情況でも、味方に銃口を向けるのは、認められないわ!」
﨔木「味方? 本当にそうなの? 今にも俺達を喰い殺そうと思ってる敵が、この中に居るんだよ!」
斎宮「﨔木、お前…ふざけるのもいい加減にしろ!」
顕「星見、早まるな! 今、レールガンは﨔木さんの手にある…ここで戦っても、勝てない」
斎宮「ちっ…面倒だな」
﨔木「アラームが鳴ったら、執行します。例え、もう『人間をやめた』存在であっても、良心が残っているなら、今のうちに自供してくれませんか、人狼さん?」
生田「…あぁもうっ! 全く、どうすれば良いんだよ?」
塔樹「簡単な話だ。私達全員がアリバイを示して、ヒトである事を証明すれば良い」
斎宮「どうやって? 昔はともかく、今の俺達は『アプリコーゼンの村人』であって、それ以上でも以下でもないだろ?」
顕「その通り、皆『村人』なんだよ。﨔木さん…お手前は、この中に犯人が居ると主張しているが、その前提が誤っている。例えば、もし僕が化物だとしたら、昨夜に﨔木さんと会っているわけだから、そこでお手前は喰い殺されていたはず。でも現実には昨晩、何ら事件は起きなかった。事件が起きなかった以上、当然ながら、犯人も存在しない」
天満「まあ、普通はそう考えますよね…」
顕「恐らく﨔木さんは、ヨーロッパの『魔女狩りゲーム』に着想を受けて、そういう事を言っているんだろうけど、あれは本来、『一夜ごとに村人が一人死ぬ』というルールに基づいている。誰も死んでいない以上、ここには魔女も、狼人間も居ないと考えるべきだ」
塔樹「同感」