Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第4章 「月」THE MOON
その日の深夜、警備担当以外が久々の熟睡に耽(ふけ)る中で、﨔木長門守夜慧ただ一人は、ほとんど眠る事なく、自分のスマートフォン画面を凝視していた。そこには、とあるウェブページが表示されている。オフラインでも読めるよう、ここに来る前、基地でダウンロードしておいた情報だ。
﨔木「ろ…6分(ぶん)の1? つまり、六人に一人って事? そんな…」
読み進めるに連れて、﨔木長門の表情が暗転して行く。そしてそれは、次第に狂気染みたものを孕(はら)み始めていた…。
﨔木「…やだ、イヤだ…僕は嫌だっ! 俺はもう、何も失いたくないのに…!」
顕「…どうした、﨔木さん? 眠れない? まあ、徹夜馬鹿の僕が言っても説得力ゼロだけど、休める時に休んだほうが良いかと」
﨔木「あ! いや、何でもないです…」
顕「そうか、何かあったんだな…私で良ければ私に、駄目なら明日、美保関さんにでも相談されよ。ただでさえ異変の真っ最中だ、一人で抱え込むのは好ましくない」
﨔木「はい…」
扉を閉め、自室に戻る。月は、新月を僅(わず)かに過ぎた上弦で、右端が少しだけ光を反射している。
顕「この光では、厳しいな…」
タロットカードの第18アルカナ「月」は、「不安」や「裏切り」を象徴し、「第三の目」を開眼させてサイキック能力を引き出すと共に、人間の心に潜む薄暗い闇を暴露し、妖魔に吠える狼が描かれている。
﨔木「…手の震えが、止まらない…止まってよ、ねえ止まれよ…どうして、どうして止まんないのよ…!」