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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

第1章 「バベルの塔」THE TOWER


 小惑星の悪夢から立ち上がらんとした先人達は、死に掛けていた文明を再建し、次世代の者達を懸命に守り抜いた。そうして生まれ育った私達の多くは、平日には学校・塾から帰ったお茶の間でアニメに瞳を輝かせ、休日をひたすらゲームで潰し、漫画なのか小説なのか分からないような漫画小説(light novel)で読書感想文を済ませる、そんな若者文化を自明に受け入れながら成長した。驚くべき事に、それらの中に描かれていた「未来」は、この現実世界において、既に実現しつつある。映像の中に居るパートナーとの恋愛、異次元の舞台を生放送(live)する尊き偶像(idol)、シミュレーションとリアルを一体化したバーチャル技術。そして、それらを支えるために、今この瞬間も原子核や太陽光から生み出され続けている、莫大な電気エネルギー。

 そう…滅亡の危機を経験し、それを繰り返してはならぬと決意した私達人類は、諸刃の科学技術を、破壊と戦争のためではなく、創造と平和のために応用して行く道を選んだのである。いや…正確には、そうであって欲しいと願っていただけかも知れない。

生田「そう言えば星見君、バレンタインの予定は?」

斎宮「黙れ大允(たいじょう)、もう終わった話だよ。それよりさ、アプリのコラボイベントで期間限定配信されたこの娘(こ)、可愛くね?」

 最早(もはや)、神話と魔術の時代は終わり、人間と科学こそが全知全能だと過信する風潮は、日に日に強くなりつつある。戦争とやらも、今や作り話の中にしか存在しない出来事だと思っていた。そのはずだった。あのような形で、私達がもう一度、「世界の終わり」を目にしてしまうまでは…。
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