Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第1章 「バベルの塔」THE TOWER
あの小惑星が地球に衝突してから、三十年近くの歳月が過ぎようとしている。如何(いか)なる流星群よりも美しく、そして恐ろしく観(み)えた、星々の暴風雨。各地に隕石クレーターという名の傷痕を遺し、数多(あまた)の生命を殺し尽くし、少なくない国々を崩壊せしめた「石の魔女」。その混乱の中で、水素爆弾や弾道ミサイルなどの大量破壊兵器が流出・拡散し、軍事独裁政権やテロリストの手に渡る事態が懸念された。辛うじて生き残った私達は、来たるべき21世紀が、第三次世界大戦…いや、もっと深刻な「世界戦争」の時代に突入するのではないか…と戦慄した。だがしかし、その後の歴史は、意外な事に、最悪の想定よりかは、楽観的な方向へと進んだ。
とさみや じゅのうじょうだい あきら
十三宮 寿能城代 顕
「…余談ですが、貝塚は単なる廃棄場ではなく、食糧や道具を感謝して神の世に送るという、宗教的な空間でもあったと考えられています。また、大森貝塚を発掘したEモース教授は、埋葬された遺体が人骨として発見された事から、縄文時代に食人風習があったのではないかとの説を提唱しました…って生田君、何か質問ですか?」
いくた ひょうごのたいじょう
生田兵庫大允
「明日の夜間演習、延期する事はできますか?」
顕「別に構わないが、何か急用でも?」
生田「実は親戚から、アイドルアニメの解散ライブに来い!と脅迫されていまして…」
さいぐう ほしみ
斎宮星見
「は? 『アニメ』で『アイドル』? 一体どっちだよ?」
生田「いや、それが…話すと長くなるから言わないけど、『アニメ』でもあり『アイドル』でもあるんだよ。確か、神戸のタイムラインにも写ってた」
斎宮「何だそれ? 意味が分かんねぇよ」
顕「まさかとは思うけど…それって、もしかして…」