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よるがあけるよ

第4章 水族館廃墟


「推奨:そろそろ水族館廃墟内に入る」
端末を非表示にし、ポッド107が急かす。
『それもそうだけど……先にあっちに行きたい。』
10Dが指差したのは水族館廃墟から少し離れた砂浜だった。
「推奨:任務の遂行」
『お願い、少しだけ。そんなに長居はしないよ。』
「……了承」
少しだけと聞いてポッド107が折れる。
ポッド107の経験上、10Dには説得するよりも願望を叶えてやった方が時間を無駄にせずに済む。禁止事項でない限りは多少多目に見るのもいいだろう、という考えだ。
『わぁ、砂浜なんて初めて。海だっていっつも飛行ユニットで素通りするだけだもん、すごく楽しみ。』
嬉しそうに海沿いの道路を走って行く10D。
ポッド107は後を追いかけて飛ぶ。
砂浜の近くまで走ると10Dはポッド107の腕部を掴み、錆びたガードレールを跳び越えた。
数メートル下の砂浜まで一気に降りていく。
着地した瞬間、湿った砂の柔らかくも固い奇妙な感触が足裏に伝わった。
『土とは違うんだね。変なの……。』
ブーツで何度か足踏みをしながら沈む加減を確かめる。歩けはするが、すぐに慣れるものではない。
波打ち際まで近寄り、水平線を見つめる。
『ポッド、久し振りに月が見えるよ。』
低い位置に浮かぶのは刺さりそうなほど鋭い三日月だった。
『何週間かずっと新月だったのにね。』
どの星よりも目立つ月は自転周期のせいか全く見えなくなる時期が在る。
太陽の光が当たらないか、昼の地帯にあるかだ。
『やっぱり地上から見る月はバンカーからとは一味違うね。』
「同意」
細い月の光が微かに海面に反射している。波に揉み消されては現れる白い影を見つめた。
『ねぇ、ポッド。前に資料で見た海と月の画像では反射する光が1本の道みたいになってたけど、今見てる実物は何だか頼りない感じだね。』
疎らで曖昧だ。光量が足りなさ過ぎる。
「推測:現象の発生する条件が満たされていないため。旧人類の時とは法則が違うため、再現は困難」
『えー、残念。もしかしたら旧人類の資料と同じものが見れると思ったのに。』
不貞腐れて砂浜にしゃがみ込み、足元に落ちていた貝殻を拾う。
『ポッド、これ何?。』
「推測:アサリ貝。旧人類が食用に捕獲していた記録がある」
『ふーん、食べれるんだ……。』
何の疑いもなく口に運びそのまま噛み砕いた。
『固いね。ジャリジャリする。』
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