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よるがあけるよ

第7章 大規模侵攻作戦


やがて絞り出すような声で10Dが答えた。
『…………崖を、登らなきゃ。』
渓谷といえど同じ深さが延々続いているわけではない。移動すればいつかは歩いて地上に戻れるかもしれない。
けれどそんな博打めいた回り道をするより、目の前にある崖を登りきった方が確実性がある。全体像の分からない深く長い渓谷で10Dはそう判断した。
メンテナンスのできる場所に連れていこう、とポッド107を抱えて立ち上がる。途端、一歩踏み出した10Dがバランスを崩しそのまま転倒した。
『うぅ……っ。ポッド、大丈夫?。』
「報告:被害軽微」
転んだ拍子に義体で潰さなかったかとポッド107を気遣いつつ10Dは片手を突いて再び立ち上がろうとした。その片手が土の中に心なしか沈む。
『何この土、フカフカしてる。』
アスファルトの下などにある土とは明らかに質感が違う。10Dは転ばないようにそっと立ち上がり、感触を確かめるように数度足踏みをした。足首までなら何の抵抗もなく埋まる。油断するともっと深くまで沈みそうだ。
砂浜のときとはまた違う足下の違和感に困惑しつつも歩きだす。
「報告:以前この辺りには樹木などの植物が多く生えていた記録がある。推測:この渓谷に落ちた枝葉が腐葉土になり、長年かけて堆積し現在まで残留している」
腕の中でポッド107が推察を述べる。土壌が柔らかかったお蔭で墜落の衝撃が少なく済んだわけだが、如何せん歩きにくい。
よろめきつつ絶崖に近寄り、都合のいい岩を探して掴む。
『ポッド、私にしがみついて。』
「了承」
両手を使い岩壁をよじ登る。けれど数メートルも上がらないうちに掴みやすい岩がなくなり腐葉土に落下した。
『いたた……ごめん、ポッド。』
「提案:当機を置いていく」
『……なんで?。』
「推測:当機の大きさ、重量から10Dの登攀の妨げになる可能性が高い。推奨:当機を置いていく」
ポッド107が言い、掴まえていた胴体をそっと手放す。
『もーっ!。そんなこと言わないで!!。ポッドは私の随行支援ユニットでしょ?。なら最後まで随行と支援をしてよ!。』
捨て去られることを自ら進言したポッド107に対して10Dが怒りの表情を見せる。
『私にはポッド107が必要なんだ。今までも、これからも!。だから……そんなこと、言わないでよ。』
絶対に諦めるものか、と10Dがポッド107を抱え込むかたちで抱き締めた。
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