第15章 第3部 Ⅰ ※R-18
アヴェンジャーは、襖を閉めると、そのまま部屋の奥へと移動した。そして、畳の上へと腰を下ろした。
「無事だな、マスター?」
そう言ってアヴェンジャーは、いまだ出入り口付近で立ち尽くしている私へと視線を投げかけた。
「……ぁ、」
そこで私は、一気に緊張の糸がほどけていくのを感じた。そのまま、その場に膝から崩れ落ちた。涙が頬を伝う。どうやら私は、自分の感情を押し殺していたらしい。
「ぁ、ごめ、なさい。アヴェ、ンジャー……。」
「いや。遅くなったな。我がマスターよ。」
アヴェンジャーは、こちらへ歩いてきて、ゆっくりと私を抱き上げた。そして、敷かれていた布団へと私を下ろした。
「ぅ、うぅ……。」
掛布団を抱きしめて、私は堪えていた嗚咽を漏らした。
「……随分と悪趣味な舞台だ。」
アヴェンジャーは、苦虫をかみつぶしたような声で、そう言った。
「このような穢れた地獄へと、我が主を引き摺り込んだ罪は重い。何処の誰かとは知らぬが、無事では済まされぬ……! 済ませてなるものか……!」
アヴェンジャーの体から現れた黒い炎が燃え盛り、バチバチと音を立てて爆ぜる。私はその光景を、ぼうっと眺めているしかできなかった。
「アヴェンジャー……。ありがとう。来てくれて。君が来てくれて、すごく安心した……。」
せめて、お礼の言葉を紡ぐ。
「随分と疲弊しているな。……無理もあるまい。今宵はゆっくりと休め。明日の朝、お前が目を覚ましたら、俺から話をしよう。それまでは、眠れ。」
アヴェンジャーの、心地良いテノールに導かれるようにして、私は瞼を閉じる。一体、此処は何処なのか。どうして、私は此処にいるのか。アヴェンジャーは、どうやって此処まで来てくれたのか。何もかもが分からない世界の中。それでも、アヴェンジャーがいる。私は、アヴェンジャーの存在を確かに感じながら、意識を眠りへと落としていった。
「今のうちに、英気を養っておけ。この地獄は、悪辣すぎるが故に、な……。」
アヴェンジャーの気遣わしげな視線に撫でられるようにして、私は眠りへと落ちた。