第13章 第2部 Ⅲ
3階へたどり着く。1階や2階と比べると、比較的小奇麗な印象すら受けるが、それでも鼻をつく、嫌な臭いは、決して薄くなっているとは言えない。
「金を払えば、シャトー・ディフでも多少はマシな部屋に入れたらしい。まさしく、“地獄の沙汰も金次第”というワケだ。」
そう言って、エドモンはシニカルな笑みを浮かべた。多少はマシ、とは言うが、トイレやベッドが、下の階よりも多少きちんとしたものになっているぐらいしか、私にはその差が分からなかった。そう言えば、まだ足を踏み入れてもいない“地下監獄”は、どのようなものなのだろうか。ファリア神父は、そこに囚われているはずだ。
「それにしても、嫌な場所ですね。未浄化霊がそこらにウヨウヨしています。マスター、どうか彼らの嘆きには耳を貸さないように。」
天草が、憐れむような声でそう言った。こんな場所で命を終えること自体、申し訳ないけれど私には考えられない。こんなにも冷たく、孤独で、陰鬱な場所で、孤独に死んでいく―――――。想像することすら、嫌だ。しかし、この“シャトー・ディフ”を生きて脱した者は、後にも先にも、エドモン・ダンテスただひとりだという。エドモンは今、何を思ってこの場にいるのだろうか。
「ねぇ。この階、変よ。囚人が、ひとりもいないじゃない。」
ジャンヌが、辺りの独房を見回しながら、そう口にした。確かに、ジャンヌの言う通り、監獄がひたすら広がっているだけで、囚人の姿など、誰一人見当たらない。それに、看守の姿も全く見当たらない。これは、明らかに変だ。
私たちは、結局誰にも会わないままに、最奥の部屋までたどり着いてしまった。
見るからに上等な造りになっている扉。その奥には、誰かがいるのだろうか。