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恩讐の花嫁 【Fate/GO 巌窟王 夢小説】

第11章 第2部 Ⅰ


 エドモンは、落ち着いた声でそう口にした。
「し、死体……?」
 私の背筋に、ゾワゾワとしたものが走った。通信越しではあるけれど、マシュも言葉を失っている。
「この島に、墓なんてなかったよね。わざわざ船で、街まで?」
「高々死体の処理にそんな手間は掛けん。死体に重しを付け、そのまま崖から海へ放り投げる。海こそが、シャトー・ディフの墓だ。」
 エドモンの口端が吊り上がり、濡れた犬歯が光っている。その瞳には深い闇を湛え、揺らめく炎のように燃えている。
「……。」
 あまりの事実に、私は思わず息を呑んだ。それでは、エドモンも、一歩間違えていれば……ということになる。確か、エドモン・ダンテスは、ファリア神父の遺体と入れ替わることによって、脱獄に成功したという話だった。ということは、エドモンは重しを付けられて、海へと投げ棄てられたということになる。想像するだけで、身震いがした。そんなメに遭ったら、いかなる人間であろうとも、100パーセント、間違いなく死ぬ。溺死した挙げ句、肉体は海中で腐敗し、魚の餌になるのが関の山だ。
「人間は、どこまでだって残酷に、残虐に成れる。人間の悪性は、醜悪なものです。」
 天草の表情からは、いかなる感情すらも読み取れないけれど、その瞳はここではないどこかを映しているようだった。天草は、その左手で、胸の十字架を握っていた。神様も仏様もよく分からない私だけれど、天草の言葉は、私の胸に重く響いた。

「そんな顔をしていても仕方ないでしょう。進みますよ、マスター。」
「あ、うん……。」
 この少女の元となったジャンヌ・ダルクの、その最期は火炙りだった。天草も、史実としての最期は、残虐極まる処刑だった。
 ―――――――それは、どれほどの絶望だったのだろうか。どれほどの苦痛だったのだろうか。きっと、凡人である私には、到底理解できない。それでも、それを考えずにはいられない。
「マスター、急ぎなさい?」
 美しい、色素の薄いジャンヌの瞳が、私を映す。

「ごめんね。」
 ジャンヌにそう促され、私は自分の思考を振り切るようにして、2階へと急いだ。






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