第10章 補完&後日談
(お前が莫迦ならば、俺は大莫迦であろうよ。)
それでも、少女が己を求めるづける限り、それに応えたいという想いもある。尤も、それはこの真面目な少女にとっては、常に罪悪感を伴わせるのだろう。今だって、どこかばつの悪そうな表情で、その手は空中を彷徨うばかり。
「何を躊躇う? お前の望みであるならば、俺はそれに応えよう。――――まァ、もしもだ。もしも、それでお前がそれを罪と思うのならば、俺はその罪をこそ、独り恩讐の彼方へと持ってゆこう。」
しばしの沈黙が流れる。
「え、えっと……。」
少女は、その意味を理解したのか、顔を赤らめて男を見上げる。
なんといじらしい姿か。男はそう思ったが、決して口には出さず、少女の小さな手が自らの頬に触れるのを感じていた。
(お前の望むままに―――――)
男がそう思った刹那、少女の可憐な唇が動いた。
「エドモンは? エドモンは、どうしたい……? 教えて……?」
男の背を、ぞくりとしたものが走った。そのまま、少女を見つめ返す。少女の瞳の奥に、情欲の火が宿っているのを、確かに見て取った。
(成程、どうやら俺は思い違いをしていたらしい。)
男は緩やかに口角を上げ、その柔らかな躰へと、手を伸ばした。
薄暗い部屋の中、獣の瞳が煌々と燃えていた。
『恩讐の花嫁 補完・後日談』・完