第10章 補完&後日談
「えど、も……? ごめ、なさ……、わた、し、も、う……。」
少女の意識は、限界だった。まだ息があるのが不思議なくらいの重傷だった。普通に考えれば、完全に手遅れだ。しかし、男は少女に、希望を示し続ける。
男は少女の唇に、自分のそれを重ねた。
同時に、宝具を展開する。男の霊基は、既に半壊状態だった。サーヴァントが有する強靭な魔術回路であろうとも、そのほとんどが既に焼き切れていた。しかし、それでも。
『―――――――待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)』
宝具を、開放した。
少女の外傷は、瞬時に回復していく。しかし、少女は意識を失ったままだ。あれだけのショックを受けたのだ。当然のことである。
「―――――っ……。」
完全に魔力を使い果たし、男はそのまま地面へと倒れ込む。手足から崩壊が始まっており、指や足先などは既に実在を保てなくなっていた。
「……、っは、ぁ……。」
男はそのまま、仰向けになった。末端から、感覚が消えていく感覚。それは、霊基の消滅を意味する。サーヴァントとしての、疑似的な死だ。しかし、男の懸念は、よもやそんな事ではなかった。今回の異変の首謀者を倒したとはいえ、ここは元・特異点だ。この状況では、いかなる敵に見つかったとしても、少女は間違いなく殺されてしまう。
「……ぐ、……っく……。」
少女と共に撒いた、希望の種。 僅かな希望だが、今はそれに賭けるしかない。こうなっては、待つしかないのだ。
「―――――――、ファリア、神父―――――……。」
かつて、あの監獄塔で、彼を導き、希望を与えた存在。或いは、復讐“鬼”に成り果てた今でさえ、男の精神を“人間”のそれとして繋ぎ留めている存在であるかもしれない。人生の恩人であり、師であり、父。知らず、男はその名を口にしていた。