第9章 希望
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正面に、エドモンの姿。出発前と変わらないように見える、その姿。
ばっちりと、目が、合ってしまった。
お互い、何も言わない時間が流れる。
ああ、あんなにもいっぱい、エドモンに言うための言葉を考えていたのに。
何か言わないと―――――。
「……っ。」
あぁ、ダメだな。あんなにもいっぱい、考えてたのに。エドモンの顔を見たら。そんな言葉は全部、涙になってしまった。
でも、私はこうしてまた、エドモンに導かれ、生かされている。だから、また逢えた。一緒にいられる。その事実に、この涙は、乾いて。
私から、とめどなく溢れてくる、この感情。
小さな私には、この感情をおしとどめられそうにない。それどころか、この感情の名前さえも、わからない。それでも、エドモンに対するこの感情は、大きな波になって押し寄せてくる。
この感情は、どうしたら言葉することができるのか。
この感情は、どうしたら相手に伝えられるのか。
―――――答えなんて、きっと、無い。
だから、せめて、手を伸ばす。
「おかえりなさい、エドモン。」
私からやっと出てきた言葉は、たったこれだけ。
「ただいま、立香。」
それでも、穏やかな顔で、エドモンはこたえてくれた。
ふわりと抱え上げられる、私のからだ。
確かに感じる、エドモンの温度、感触、匂い。
感じている。確かに、触れることができる。
あぁ、わたし。生きてるんだ。 ここに、生きてるんだ。
エドモンに触れて、その事実をようやく実感している。
エドモンが、私と共に在ってくれる――――――その事実が、この上なく嬉しい。
エドモンと、これからも一緒にいられる―――――その未来が、この上なく愛おしい。
でも、それが言葉にできない。それでも、伝えたい。 私はもう――――いっぱい、いっぱい。
「――――――。」
何も言えずに、私から、エドモンへ。
唇を、重ねた。
自分でも、随分とぎこちない行為だと思う。
「……。」
それでも、エドモンは私の拙いキスに、応えてくれた。
「……っ……。」
唇を離す。それはひどく、名残惜しかったけれど。
エドモンの金色の瞳に、私が映っている。それが、嬉しくて。
エドモンと再び目が合い、笑い合う。