第1章 唐紅の山
「それで、お主はどこの誰で、なぜ儂の山で遊んでおった」
意外にも女は素直に答えた。
聞けば自分は大江の鬼の里で暮らしていたが、賊に襲われ里は壊滅、生き残ったのは自分だけで、それから何十年も何百年も日本各地をフラフラさ迷っていたという。
「どこかの里や組には入れてもらえなかったのか?」
「入ろうとしたのですが、私は男運がなく、その、襲われそうになることが多く、一つ所には留まっていると危険だったのです」
なるほどのぉ。山で遊んでおったのも迷い込んでしまったからだろう。
「悪い事をしたな、追い回したりして」
「いえ、勝手に山に入り遊んでいたのは事実。どのような処分でも受ける覚悟はできております」
この女は今までも様々な妖怪の縄張りに入り込み、その度に虐められていたのか……。不憫なやつじゃな。
「お主これから行くところは?」
「特に決めておりません。これから先も決まるかどうか」
「そうか、なら儂んとこに来い。部屋はある、仕事が欲しいなら儂の身の回りの世話をしろ」
「えっ」
「いや、世話よりあれだな。お主儂の女になれ」
「ええ!?」
「行くとこも嫁ぎ先もねぇんじゃろ? ならいいじゃねぇか。儂はお主を気に入った、美人じゃしのぉ!」
おーおー慌てとる姿もまた可愛いのぉ。
「で、でも貴方にも奥方が……」
「昔はおったが、人間での、もう何十年も前に死んだ。儂は何十年も一人身じゃ。なぁにすぐに夫婦になれとは言わん、独り身同士共に暮らさぬか?」
「でも、でも……」
「うるさいのぉ。そこまで言うなら、儂の縄張りに入った罰じゃ。女、儂の女になれ」
やはり人生には、花が必要じゃな。