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鬼猿恋絵巻

第2章 名はお紅


「随分大きなお屋敷ですね」
「そうかぁ?」

 本家の方がもっと大きいけどなぁ。
 本家に連れてったらもっと驚くんじゃろうな。

「おーい帰ったぞぉ。誰か茶ぁ入れてくれ」
「おかえりなさい頭。頭、その女は」
「儂の女じゃ、そこで拾った」
「えぇ!? 拾ったって……どこの組かもしれねぇ女をですかい!?」
「なんじゃ儂に文句でもあるのか」
「文句というか……」

 ごちゃごちゃ煩いのは放っておきさっさと中に入る。
 そういや女の名前も聞いてなかったな。

「女、名前はなんという」
「名前は、とうの昔に忘れました」
「そうか」

 名前が無いのは不便じゃな。
 名前、名前……。
 ふと庭先の落ち葉に目が入った。
 真っ赤に色づいた落ち葉に先ほど出会ったことを思い出す。あそこも綺麗に色づいていたなぁ。

「紅(こう)……」
「紅?」
「うむ、紅、紅……これじゃな! お紅! お主の名は今日から紅、じゃ!」

 ふふん、我ながら良い名じゃな。

儂はお紅と生涯連れ添い、もう一人子供ができることはまだ知らない。


 一通り屋敷を案内し、縁側に座り茶を啜る。

「あの、狒々様」
「なんじゃ?」
「本当に私をここに置いてくださるのですか?」
「置いてくださるも何も、お紅は儂の女じゃ。儂が自分の女とひとつ屋根の下暮らすのは何ら不思議じゃあるめぇよ」
「ですが、私は長らく一人で生きてきました、それ故誰かと暮らすなど……迷惑ばかりかけてしまいます」
「そうじゃろうなぁ、最初はそんなもんじゃろ。なぁに儂ら妖怪は寿命の永さが取得みたいなもの。先は長い、まぁゆっくり慣れていけばいいさ」

 それっきりお紅も儂も喋らず黙って茶を啜った。
 なーんか忘れとる気がするが、なんじゃったかのぉ……ま、大したことじゃねぇだろ。
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