第3章 また生きる事
「付近を探索していたところ、近くの湖周辺で、記憶をなくしたとみられる女性がいましたので、指示を仰ごうとお連れしました。」
ジャンを横目で見ると、少しばかり緊張しているように見えた。
「記憶が……ない?」
教官はそう言うと、少し目を開いた。
「名前だけは覚えているようですが、出世から場所、そして巨人の事などを全く知らないようです。」
ジャンの言葉に教官は暫く考えるような素振りを見せる。
「キルシュタイン、ご苦労だった。二人で話をしたい。席を外せ。」
こちらを向いた不安気な瞳とぶつかるが、ジャンはすぐに「はい。分かりました。」と言い、出て行った。
部屋にピリッとした緊張感が走る。
男性は私を上から下まで見て「私はキース・シャーディスだ。貴様は何者で名を何と言う?」と言った。
男性……
いや、キース・シャーディスの低く威圧するような声が部屋にやけに響く。
返答を間違えたらどうなるんだろう。
私の返答次第で事は決まってしまう。
ここには帰る場所がない。
庇ってくれると言っていたジャンが隣にいない事に一抹の不安を覚えた。
一度投げ出した命なのに、今更怖気ずくなんておかしな話だ。
『私は、ミサキ・サカシタと申します。何者かと仰いましたが申し訳ありません、ここに来た経緯や、出生、世界の事、全てを覚えていません。先程の彼に、巨人と言う生き物に対抗する術を教えて頂けるのが今ここの場所だとだけ教えて頂きました。』
シャーディス教官はまた暫く考え込む。
頭の中で私の処分でも考えているのだろうか。