第1章 promise
櫻井が俺に付いて1週間…
やはり俺の目に狂いはなく、外見と人柄の良さから櫻井は瞬く間に会社中の人気者となった。
それは得意先でも同様で、同行させるだけで相手の機嫌が良くなる。
相手が女性だと尚更だ。
ただ、得意先で笑顔を振り撒く櫻井を見ていると、ヤキモキする…
櫻井はどこに行っても『櫻井くん今度飲みに行こうよ』と、男女問わず誘われる。
櫻井は、分かってるのか分かってないのか『はい、是非お願いします』なんて笑顔で返事をするうえに『やっぱり社会人って社交辞令多いんですね?』なんて呑気なことを言う。
人によっては個人的な連絡先を聞き出そうとするから『何かあったら俺の携帯に連絡ください』って俺が阻止する始末。
お前分かってるのか?みんな本気でお前のこと狙ってんだぞ。
俺の心配は絶えない…
こんな子羊を、狼の群れの中に一人で行かせる訳にいかない。
半年もすれば、ひとりで得意先回りをするようになる。
その前に、誘いのかわし方をしっかりと教え込まなきゃ…
大きな課題が増えた。
会社に戻ると、櫻井と相葉が課長に呼ばれて席を外した。
向かいのデスクのニノが、声を掛けてくる。
「どうよ?櫻井は」
「優秀な営業マンだよ。とにかく人に好かれる」
「そりゃそうだ、あの見た目だもん。物腰も柔らかいしな
営業としては、いい素質持ってるよ
で?その割りには浮かない顔してるけど?」
「あいつ、誘われると良い返事しかしないんだよ…」
「そんなの当たり前じゃん
得意先の誘いを断れるわけないだろ?」
「そうなんだけどさぁ…個人的なものが多いというか…」
「大人なんだから自分で対処出来るでしょ
それともなに?智的に困ることがあるの?」
目の前のニノはニヤニヤしてた。
「…そんなことないけど」
「ふーん、まぁ、いいや…
それよりさ、今日飲み行かね?」
ニノと飲むのも久しぶりだな、たまにはいいか。
「いいよ、行くよ」
「よし、決まり!
じゃあ櫻井誘っておいて」
「はっ?なんで?」
「雅紀が飲みに連れてけって煩いから
だから櫻井も誘って4人で飲もう」
「雅紀って?」
「あぁ、相葉」
「下の名前で呼んでんの?」
「あいつが下の名前で呼べってしつこいから仕方なく…
じゃあ、よろしくね」