第1章 promise
「えっ?さとくん、いなくなっちゃうの?」
「…うん」
さくちゃんが何も言わないから顔をあげると、さくちゃんの瞳からポロポロと涙が溢れていた。
「…さくちゃん」
「さとくん、やだぁ~、いなくならないでぇ」
泣きじゃくるさくちゃんを抱きしめた。
俺より一回り小さいさくちゃんは、腕の中にすっぽりと収まった。
「ごめんね、オレもさくちゃんと離れたくないけど、まだ子供だからひとりでここにいられない…」
「うん、そうだよね、ごめんね?さとくん…」
そう言って離れたさくちゃん。
「元気でね、さとくん」
まだ、涙が残った瞳で笑顔を見せるさくちゃん。
「さくちゃん、手出して」
「手?…はい」
差し出されたさくちゃんの手を取ると、一本の指にキーホルダーを通した。
「なにこれ?綺麗~!」
ピンク色のガラス玉が付いたキーホルダー。
さくちゃんにあげたくて、母ちゃんの鞄に付いていたキーホルダーを無理を言って貰った。
公園で会った子にあげたいと言ったら、『へ~、やるわねぇ、いいわよあげる』って母ちゃんが笑顔でくれた。
「ねぇ、さくちゃん。大きくなったらオレのお嫁さんになってくれる?」
「さとくんのお嫁さん?」
さくちゃんは少し考えこんでたけど
「いいよ、さとくんなら」
「ほんと?じゃあ約束だよ」
「うん、約束」
笑顔で答えてくれた直後、強風が吹いて桜の花びらが散った。
「わぁ、すご~い!」
桜吹雪の中に立つさくちゃんは、凄く可愛いかった。
「見てさとくん
このガラス玉、桜と同じ色だね」
そう言ってガラス玉を指で摘まんで、桜吹雪に翳した。
「そうだよ?だからさくちゃんにあげたかったんだ。
さくちゃんの色だなぁ、って思って」
「ふふっ、ありがと」
さくちゃんの唇が俺の唇に触れた…
ピンクに染まるさくちゃんの頬も、桜と同じ色だった。
それ以来、さくちゃんに会うことはなかった。
でも、桜の季節になると毎年思い出す。
桜色したさくちゃんのことを…