第1章 promise
「俺たちもそろそろ帰るか」
「そうですね」
ふたりで席を立ち店を後にした。
もう少し櫻井といたいという気持ちはあった。
ただ仕事を離れてふたりきりというのがなぜか俺を落ち着かせなくする。
「櫻井なにで帰るの?」
「電車です」
「俺も、じゃあ駅まで歩くか」
ふたりで肩を並べ歩いた。
公園の中を通り駅へ向かう。
公園には満開の時期を過ぎた桜がまだ咲き残っていた。
突然強風が吹き思わず目を瞑った。
「わぁ~」
櫻井の嬉しそうな声が聞こえた。
目を開くと桜の木を見上げる櫻井の姿…
強風に煽られ桜の花びらが宙を舞い櫻井の周りに降り注ぐ…
「…さくちゃん」
俺は無意識に呟いた…
すると櫻井がこちらを振り向き、返事をする。
「…はい?」
「へっ?」
「え?あれ、今俺のこと呼びませんでした?」
「いや、呼んでないけど…」
「あ、そうですよね…
今『さくちゃん』って聞こえた気がしたんで…
でも大野さん、俺の子供の頃のあだ名知らないですもんね」
ふふっ、って恥ずかしそうに笑った。
「え…お前、あだ名『さくちゃん』だったの?」
「はい、小さい頃ですけど。
小学校に入ってからは名前で呼ばれるようになりました」
「櫻井って、東京出身だよな?」
「そうですよ?
あ、でも小さい頃は体が弱くて、2年間田舎の祖父の家に預けられていました
その間は東京を離れてましたね」
「いくつくらいの時?」
「4才から6才までです
小学校に入ってすぐ、東京に戻ってきました
田舎にいた時のあだ名が『さくちゃん』なんですよ
幼稚園の同じクラスにもう一人『ショウ』がいたんで、紛らわしくないように名字で呼ばれてました」