第1章 続・愛妻弁当
花を贈ろうと決めたのに僕は困ってしまった。
君が好きな花を知らなかったから。
君から勇気をもらった午後からは、誰もが驚くような集中力で仕事をこなした。山のような書類も、嵐のような電話も、風のように過ぎる時間も、なにもかもから僕は自由だった。
普段の僕からは想像できないほどだったらしく、隣の席の同僚から大丈夫か?なんて言われるほど。
大丈夫に決まってる。
そうでなきゃ、また同じことの繰り返し。
君からもらった小さな勇気がしぼんでしまわないうちに、花屋に行かなければ、またいつもの帰り道になってしまいそうだった。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
定時の18時を少し過ぎてしまったけれど、普段に比べればかなり早かった。遅くなるときは、21時だったり22時だったりするから。
急ぎ足で花屋に向かう途中に、君にメールを送る。
( 今から帰る。)
そこまで文字を打ったところで、指が止まる。数秒間、文字キーの上を親指がいったりきたりして、
( 今から帰る。君のおかげで頑張れたよ。)
と打って送信ボタンを押した。
そしたら、すぐに返信が来た。
( どうかしたの?(笑)今日はハンバーグだよ。気をつけてね。)
ハンバーグか。また僕の好きなものだ。
君のハンバーグは絶品で、僕はよくリクエストをする。だがしかし、最近は健康が~とかメタボが~とかで、あんまり作ってくれなくなった。気遣ってくれてるのは分かるが、少し寂しかったりした。
でもやっぱり決まって、今日のお弁当みたいに、なんとなく元気がないときの夕飯はハンバーグだった。
君のそういう、さりげなさに救われてきたのは、いつも僕ばかりで僕は君に何をしてあげられているだろう。
ふと考え込みそうになったところで、はっとする。
それから、そんな気持ちを抱いたまま、ケータイを閉じて、足を早める。帰り道の花屋は18時半で閉まってしまうのだ。