
第3章 【心はじじい】 狸と槍(男主)

陽が天高く登り正午を迎えた頃。
本日の仕事を終えた私は己で入れた緑茶と本日の昼餉となる暖かいきつねうどんを啜っていた。
インスタントなるモノの方が楽ではあるけれど病弱な私には栄養をつけてほしいと、直ぐに戻ってしまったが一時的に内番を切り上げた燭台切が作ってくれた。
小狐丸や鳴狐とお供のために買いだめておいたお揚げが二枚も乗っている。
二人は遠征中なので羨ましがられることなくほのかに甘いお揚げを堪能できる。
ホクホク顔で食べ進めていると背後の襖が再びスパーンッと開かれる。
全くもって風情のない足音にどうせ鶴丸だろうとジト目で振り返ればジャージ姿で怒りの形相の同田貫が居た。
「同田貫。廊下を走ってはならん。」
「わ、悪い…じゃなくて!鶴の爺さんをなんとかしてくれ!」
悲鳴のような声と共に後ろからひょっこりと鶴丸と御手杵が現れる。
なぜか二人ともびっしょり濡れていた。
頭にタオルを被せられているところを見るに廊下はびしょびしょだろう。
この少し寒い中なぜそんなことになっているのかと目線で問えば反省していない鶴丸が胸を張った。
「どうだ驚いたろう!」
「何故濡れているのかを問いたいが取り敢えず驚いた。寒いのだから鶴さんと御手杵はシャワーを浴びて着替えてきなさい。」
「あー…ごめんなさい。主。」
「御手杵は良いのだ。鶴さんに何か言われて遊んでしまったのだろう。子が好奇心旺盛なのは致し方のないこと。風邪を引く前にあったまってきなさい。」
「俺の扱いひどくないか!?」
鶴丸のドヤ顔は軽く流してしょぼくれて座る私に目線を合わせて謝った御手杵の濡れた頭をぽんぽんと撫でる。
長身の御手杵の顔を見るとき首が痛くなってしまうのを気にして目線を合わせてくれる。
心優しい彼は鶴さんに騙されただけだ。
幼子の好奇心を頭ごなしに叱るほど私は非道ではない。
鶴丸を促して二人が風呂場に向かったのを見届けて改めて同田貫を見る。
説明を促すと頭を抱えて溜息をついた。
「やる事のないじいさんが俺たちの部屋に突撃してきて、物置にある水鉄砲で遊ぼうって言い出したんだ。」
「ああ。あれか。」
真夏の猛暑の日。
エアコンのない日本家屋が常であった多くの本丸を流石に見兼ねた政府が順番にエアコン設置を行なっていた夏。
最後の方までつく事のなかった我が本丸で流行った水遊びの道具である。
