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【刀剣乱舞】心はじじい

第1章 【心はじじい】 道具と人の狭間の話(男主)


審神者として私が本丸にやってきて一年ほど経った。
先輩の審神者たちに励まされながら忙しく動き回っていた頃もちょうどこんな風に桜が咲いていた。
あの頃は気づきもしなかったが、この本丸に咲く桜は見事なものだ。
日本家屋に桜はよく映える。
現代の手狭な家よりものびのびとした日本家屋をゆったりと照らす明るい桜は暖かな思いを与えてくれる。
美しく咲き誇ってこその桜だ。

だが、桜の花を鑑賞するのは人間だけ。

実際は実るための過程に過ぎない。
実り種子を残してこそ植物だ。
「植物」として望まれるのは種子を残す「花」だ。
「桜」として望まれるのは美しく咲き誇る「花」だ。
同じ花なのに業務か情感かで暖かいか冷たいかが変わる。
人間の幼き頃から培ったもので作り上げる積み木のようなものには暖かいものの方が心地いい。
だから、美しく咲き誇ることを願うのだ。

「どうしましたか。主。」

後ろからかけられた声に思考が引き戻される。
ゆっくりと後ろを振り向けば、へし切長谷部がそこに立っていた。
少し乱れた前髪が暖かな風に揺られる。
走ってきたのだろうか。
本丸にいる刀剣男子の中でも「主命」に敏感な彼は、良く俺の世話を焼く。
初期の頃からいるのも相まって、刀剣男士達のまとめ役でもあった。
そういえば、今日の内番と出陣の予定を知らせていなかったか。
伝えて欲しいことは書簡にまとめてはいたが、部屋に置いてきてしまったな。

「なんでもないさ。今日の予定を聞きにきたんだろう。」

小さく首を振って要件を聞く。
まだ不思議そうな顔をしていたが、要件の方が優先的だと判断したのか頷いた。
私がここにいるのがそんなに不思議なことだろうか。
ああ、でも予定を伝える前に外に出ることはあんまりないかもしれないな。

「すまないが書簡は部屋に置いたままなのだ。取りに行こうか。」

私の言葉にますます不思議そうな顔をしたへし切長谷部に苦笑いをこぼす。
確かにいつもは外に出ようと書簡を忘れることはないかもしれない。
だが、ここまで不思議がられてはなんとなく情けない気持ちになってしまう。

「私とて人だ。たまに忘れ物ぐらいするさ。」

何と無く納得していないような顔だったが「それも…そうですね。」とだけ独り言のように呟かれた。
苦笑いしかこぼせない自分の表情を叱咤して引き締めてさっさと部屋に向かうことにした。

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