第1章 愛妻弁当
今日のお昼は、君の弁当。
この前のカツ丼はたまたまで、
いつもは毎日弁当を作ってくれる。
「お、愛妻弁当ですか?いいですね」
4つ下の部下が、声をかけてきた。
「そうかな。毎日同じものだよ」
本当はすごく嬉しくて、感謝してるけれど。それされも、胸の内に仕舞うことしかできない自分がなんとなく情けない。
「またまたー。顔にでですますよー(笑)」
そう言って、部下は社員食堂に向かった。
その部下の背中を見送ってから、また弁当に目を落とす。からあげとたまごやき入ってるかなと想像しながら、弁当の蓋をあけると。
「ん?」
小さなメモ紙。
不思議に思いながら、開いてみる。
(お仕事お疲れ様。
午後からも頑張って!)
弁当には、唐揚げと玉子焼き、鮭のおにぎり、ミートボール、冷凍グラタン、ブロッコリー。全部僕の大好きなものばっかり。
結婚したてのころ、
子供みたいなお弁当好きなんだね
なんて笑われたこともあったけれど、なんとなく元気がないとき、決まってこのお弁当を作ってくれた。
「今回は、ある意味君のせいなんだけどな」
小さなメモは、宝物。
そっと、机のマットの端にしのばせた。
いつもそうだった。
決まって君からきっかけを作ってくれた。
何かに悩んでいたり、一歩が踏み出せないとき、君が背中を押してくれた。
いつものお弁当に変わりはないけれど、
なんとなく、君の笑顔とそれから、
ほんの少しの激励みたいなのを感じた。
勇気をだして、たまには私を喜ばせてみてって。こんなふうに、些細なことでいいからって。
別に君はそんな意味を込めているわけではないだろうけど。自分自身で勝手に思い込んでるだけだろうけど。
「やっぱり、美味しいな」
そうだ、帰りに花でも買って帰ろう。
抱き締めて、ありがとうと言おう。
それから、愛してるとキスをしよう。
たまには、男らしいところなんて見せて。
また子供っぽいお弁当を作ってもらうか。
「いいなあ。君は、愛妻弁当か」
上司が通りすがりに声をかけてきた。
「そうなんですよ。一番好きなんです。」
そう言うと、
そうかそうかという顔で上司は席についた。
そんな、なんてことはない、昼下がり。
僕は君にまた恋をする。
おわり