第5章 魅惑の女性
「この間はすまなかった。月島さんは俺を心配して声を掛けてくれただけなのに、あんな態度を取ってしまって」
申し訳ないと緑川は花織に頭を下げる。緑川は今日の試合で己の殻を破った。ヒロトの言葉でもっと自分のサッカーを信じてみようと思った。周囲が見えるようになったからこそ、先日の自分の花織に対しての行動を恥じた。彼女はあんな自分にも笑いかけてくれたのに、手酷い言葉で拒絶してしまった。
「気にしなくていいよ。上手くいかないときってイライラしちゃう気持ちもわかるから。それより、悩みが解決できたみたいでよかった」
正直あの時の緑川の態度には心配しか感じていなかった。でも彼がこうして謝罪しにきた、ということは言葉通りヒロトが何とかしてくれたのだろう。それだけで十分だった。花織はそう思い、むしろ共感の言葉を返す。緑川は彼女が自分を責めないことに困惑しているようだった。
「でも……」
彼はしょげた子犬のような目で花織を見る。花織はふふ、と温かく柔らかい微笑みを見せてひらりと手を振った。
「終わり良ければ総て良し 、でしょ?」
緑川お得意の諺を用いて花織が花が咲いたかのように笑う。緑川は思わず彼女の微笑みにつられて顔を綻ばせた。いい子だ、この女性は。ヒロトが惚れたのが今になってよくわかる気がする。とても温かくて優しい、そしてどこか女性的な魅力を纏った少女。
「ありがとう、月島さん」
「ううん。あ……、いけない。お夕飯の支度しないと。今日のメインはささみのチーズ巻き揚げなんだ。楽しみにしててね」
それじゃあまたあとでね。花織はそういって急ぎ足で食堂へ向かう。取り残された二人はそんな彼女の後姿を見つめて言葉を交わした。
「いい人だね、月島さん。ヒロトが好きになった理由が分かった気がする」
「悪いけど緑川には譲れないな。……もっとも、彼女の心は彼にしか無いようだけれど」
好きな人が認められるというのは気分が良いことだ。ただ自分はそれを素直に喜べる立場にはない。赤い髪の少年は叶わない恋に切なく笑った。