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諸恋

第14章 スタートライン





これからどんなことが起きたとしても、何かがふたりを引き裂こうとしても絶対にこの想いは揺れはしないだろう。長い長い恋の終着点、そしてすべての始まり。再びふたりは固く抱き合った。二度とは返らないこの時間を惜しむように。

「中学校生活最後に、一郎太くんにお願いがあるの」

温かな沈黙の果てに花織が静かに風丸に言葉を掛ける。風丸は彼女の願いを訪ねた。花織は風丸の手を引いて再び陸上のトラックのスタートラインに並ぶ。

「最後に私と本気で走ってほしい」

花織の瞳には強い決意があった。中学生活を締めくくるラストラン。初めはひとりで走るつもりだった。でもひとりでは締めくくれない。花織の中学校生活は風丸がいなければ終われない。

「ああ、分かった」

風丸は花織の願いを快く受け入れた。ふたりは同じゴールを見据えてスタートラインに立つ。両手をスタートラインに付け、地に膝を付いた。どくん、どくんと全身の血液が巡る感覚。花織はちらりと横で構える風丸を見た。

どくん、と一際大きく心臓が高鳴る。真っすぐにゴールを見つめる男らしいその表情は花織が初めて見惚れた彼がそこにいた。初めて走った時と変わらない、真剣な面持ち。花織は口もとを緩めて前を見据える。絶対に、負けない。

花織が澄んだフィールドに響く声を放つ。

「用意!」

お互いに軽く腰を浮かせて、地面を蹴りやすい体制を保つ。

「スタート!!」

花織の声と共にふたりは強く地面を蹴ってスタートラインを飛び出す。低い姿勢を保ち、一歩一歩強く踏みしめて加速していく。タータンに舞い散った桜がふわりと宙に舞い上がった。長い髪を靡かせ、ふたりは同じ道を、同じゴールに向かって走る。

その姿を何かに例えるならばまさに風、それ以外の言葉は当てはまらなかった。


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