第12章 彼の秘密
「今日、本当はこれ着て走ってたんだ。……汚れちゃって、今日はこんなふうになっちゃったけど」
持ち上げたユニフォームで口元を隠しながら花織が、呟いた。風丸は目を見張る。背中に大きく掲げられたユニフォームの背番号、それを縁取る名前。彼女が握りしめて広げたそれは風丸の心を揺さぶり、満たすには十分だった。どきりと心臓が大きく音を立てる。愛おしさから胸が苦しくなって風丸は口を手で覆った。
「ちょっと自己主張激しかったかな……?」
風丸から目を逸らし、消え入りそうな声で花織が風丸に問いかける。彼女はぎゅっとユニフォームを握る両手を口元に当てて目を伏せる。そんな仕草や表情、ユニフォームが表す彼女の心にただただ堪らなくなって、身体が動く。風丸は花織の両手を包み、彼女の額にこつんと額を当てた。
「むしろ嬉しいよ。……花織」
「……うん」
「俺は花織がそれを着てるところが見たい」
涙声で花織が風丸に答える。花織は泥にまみれ、否定されていたすべてが肯定されたような気持ちになった。胸の内から込み上げ、頬に伝う喜びを唇を噛み締めて堪える。
「……うん」
……また今度、一郎太くんとお揃いのユニフォームを着よう。今度はちゃんと一郎太くんにそれを見てもらおう。
花織は胸の中でそう決心する。瞬きをして風丸を見上げた。頬を紅潮させて優しく微笑む風丸と目が合う。その笑顔と向き合っていると自然と笑みが零れて心の底から彼を愛おしく感じた。