第11章 麗しの花嫁
人差し指を立ててリカが呟く。呆れた様子で塔子がリカを制したが、実際リカの言う通りだった。セインの言うことは彼女を愛する者が花織にキスをすれば、彼女は目覚める。そういうことだ。
「だが、真の愛を持つものでなければ彼女は目覚めない。そういう呪いだからな」
ただキスをすればよいわけではない。セインの言葉に風丸にプレッシャーが掛かった。彼が本当に花織を愛しているのか、それが今ここで試されるということになる。
風丸は腕に抱いた花織を見つめる。白いヴェールに白いドレス。覗き込んだ美しい顔。彼女の長いまつげは伏せられていて、桜色の唇は艶やかに風丸を誘う。口づけなんて造作もないこと。それなのにこんなに胸がドキドキとするのは部外者の視線が集中しているからだろうか。
「花織……」
風丸が花織の頬を撫でて愛おし気に彼女を見つめる。ギャラリーの反応もそれぞれだった。何らかを察した土方はさっと近くにいた木暮の視界を両の手で遮った。他にも自ら視線を逸らすもの、逆に興味津々でふたりを見つめるもの、さまざまである。リカなどはきゃあと叫ぶのを堪えて口元に手を当てている。
「……」
静かに風丸が花織を抱き寄せ、優しく彼女の唇にキスを落とした。ざわり、と周りの空気がどよめくのも気にしないでふたりは長い口づけを交わす。風丸がそっと顔を上げると風丸の腕の中でそうっと花織が目を開いた。
「……一郎太くん?」
「目が覚めたか、花織」
ふわりと微笑んで花織が風丸の頬に手を伸ばす。そっと柔らかな花織の手が風丸の頬に触れ、花織の目が細められた。
「助けにきてくれたんだね」
「来るさ、花織の為ならどこへだって」
「……一郎太くん」
花織が風丸の首に腕を回して今度は彼女が彼に口づける。それを風丸は拒んだりはしなかった。しっかりと花織の身体を抱きとめてキスを受け止める。
熱烈に口づけを交わすふたりがギャラリーの存在に気が付くのは、これから五秒後のことであった。