第10章 彼女の苦悩
「ナツミ。何でもいい、カオリのことを教えてくれ。知ってること全て」
ウィンディの表情はいつになく真剣だった。サッカーをしているとき、走っているときよりも格段に。
「月島さんと知り合いなの?ウィンディ」
そう問いかけながらも夏未はウィンディの心中を察する。きっとあの少女に魅了されたのだと。チームメイトでもそんな人は少なくはなかった。何かきっかけがあって、彼女の魅力に触れてしまったのだ。
「ああ、デートに誘う約束をした」
「で、デート?」
想像の範疇を越えた言葉に夏未はきょとんとしてしまう。ウィンディは知らないのだろうか。月島花織には心に決めた人がいることを。いや、それよりも花織が告げていないのだろうか。彼女の性格からして自分の彼氏のことを黙っているはずはないと思うのだが。
「ウィンディ、その残念だけど月島さんにはボーイフレンドがいるわ」
長い髪を耳に掛けながら、おずおずと夏未が彼に告げる。ウィンディがその事実を知らないのであれば少々残酷な宣告になってしまうかもしれないと思いながら。
「知っている。カゼマルとかいう、カオリに相応しくない優男だ」
だがウィンディは驚くではなく、ぐっと眉間に皺をよせ忌々しいという表情を見せる。夏未は思わず自分の表情が引き攣るのを感じていた。
月島さん、貴女と言う人は。またとんでもない火種を抱えてしまっているのね。
「だからあの男からカオリを奪う。そのためにはまず情報が必要だ。だからどんな些細なことでもいい、ナツミ教えてくれ」
バン、と机を叩いてウィンディが夏未に詰め寄る。真に迫った表情だ。普段コトアールの選手たちの中では花織の恋人に似て、相談役の立場にいるウィンディがここまで勢い任せになっていることに夏未はタジタジになりながら苦笑を漏らした。
「ず、随分と入れ込んでいるのね。彼女に」
「当たり前だろ」
にやりとウィンディが笑う。そして少し得意そうに右手を胸に当て、自分を指さした。さらりと彼の長い髪、風丸一郎太によく似た青い髪が靡く。
「カオリは俺の運命の人なんだから」