• テキストサイズ

スノーマン 【短編】

第1章 そばにいたいよ、願いを叶えるために。。。


それから日は経ち、僕に優太くんは何枚かの紙を持ってきた。


「こっちが100点えらいで賞、こっちは徒競走速かったで賞!でね、これが友達多いで賞だよ!」


自慢げに見せる賞状の数々、優太くんの成長の証だ。


「「「「「優太くーん!!!」」」」」


彼の名を呼ぶ幾つもの声。
彼の努力で全ての嘘は本当のこととなった。


「さ、優太くん。お友達と病院へ行ってお母さんにこれ見せてあげな?」


賞状を返すと、彼は大きく頷いて大勢のお友達と病院へ駆けて行った。何もかもが手遅れになる前に。


そして僕は1人、ブランコから病室の窓を見る。




少し経ったら優太くん達の姿が見えた。

嬉しそうな声がなんだか聞こえてくる。



『ね、全部本当でしょ?だからもう行かないで!僕のそばにいて!』


『うん、お母さんは優太のそばにいるよ』



2人がついた最後の優しい嘘、そして2人は抱き合った。


優太くんはお母さんがもうそばにいれないことも分かってる。

お母さんも優太くんのそばにいれなくなることも分かってる。


それでも2人は笑っていた。


僕は叶えられたかな、2人の『そばにいたいよ」という願い。



幸せそうな2人を見守りながら、冬の日差しに照らされた僕は1人溶けていく。


頭に乗せられた赤いバケツが落ちてしまった。

こんな木の棒の手じゃ、優太くんの冷たそうな赤い手を握れなかった。

こんな石の目と木の枝の口じゃ、優しく笑いかけてあげられなかった。

こんな冷たい体じゃ、優太くんを温かく包み込むことがしてあげられなかった。


だって僕は優太くんに作られた雪だるまなのだから。




でももう平気だね。笑ったって泣いたって大丈夫。どんな冬にだって、春は訪れるから。



ーーーーーーーーーーーーーー



僕は一年に一度魔法がかけられる雪だるま。

冬の間に人間の願いを叶えるのが僕の仕事。


でもその冬を過ぎると、体が溶けて消えてしまうんだ。



それでもね、優太くんを助けたかった。
だから悔いなんて何もないよ。


『優太くん…元気で……ね……」




ブランコの近くの雪には赤いバケツ1つと木の枝と石ころが落ちていた。




/ 5ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp