第1章 姫、木ノ葉におはす。
花の父である花の国の国王は、とても優秀な政治の腕を持っている。
慈悲深く、気の利く性格により、国民からの信頼はとても厚い。
だが、彼にはひとつ負があった。
前国王から受け継がれなかった、“血継限界”。
その力は自然を自在に操ることで、国を外敵から守り、豊かな資源で国民を支えてきた。
そのため、血継限界を受け継ぐ王族は国民たちにとって光であった。
しかし、その力を持たずして生まれた現国王は、兄の血継限界の力を借り、国に立っていた。
兄は非常に弟思いであり、同時に身体を病んでいる。
床に伏したままの自分では国王として国を支えられないと判断した兄は、自分が引き継いだはずの力を公にはせず、
弟に与え続けることで国に貢献した。
その兄も、近頃は起きているだけで体力の消費が激しく、力を与えることさえも難しくなった。
そして、能力を持たない自分に劣等感を持っていた……能力を持っていた兄に、与えられた感謝と共に嫉妬を持ち続けた現国王は、ついに手のひらから消えた力に、気が狂ってしまった。
弟の気持ちにずっと前から気が付いていた兄は、ついに現国王に自分の身体に宿った力を与え、余命の少ない自分が死ぬことを選んだ。
そしてその取引の儀式が、誰もが寝静まった夜厳かに行われようとしていた時、ひとり娘の花が能力を開花した。
自分が腹を痛めて産んだわけではない子は、兄よりも思い入れがなかった。
王妃は頑なに拒んだが、狂った国王は儀式を放って娘に手を掛けようとした。
止めることを諦めた王妃は、国王と相打ちを覚悟で、寝ている花を自分の臣下に託し、ナイフを手に広間へ出た。
そして臣下は花の国から最も遠く、お互いの国の認知が低い火の国へと逃げてきたのだった。