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【イケメン戦国】恋花謳〜コイハナウタ〜

第20章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜


「これでよし…。さ、また歩くぞ?」

2回目の狼煙を念入りに消した秀吉。

「みんな…気づいてくれたかな?」

隣に座り、不安げにそう聞いてきた美蘭に笑顔を向けると

「ああ。さっき離れのあたりで上がった狼煙がその証だ。向こうも狼煙の位置の変化で俺たちが西に進んでいると必ず気づくだろう。だから、そんな顔するな?」

「きゃ!」

秀吉は美蘭の眉間に寄った皺を指で突いた。

「おかえし。だ。」

「もうっ!」

「あはは!さ、いくぞ。」

悔しそうに膨れた顔も可愛らしい。

そんな風に思ってしまう自分は、相当重症であると思いながら、秀吉は立ち上がった。


それとほぼ同時に、

美蘭が突然騒ぎ出した。

「うん…きゃ!…いや!秀吉さんっ…!!」

「…っ?どうした?」

秀吉は慌ててまたしゃがみ、美蘭の肩に手を乗せて落ち着かせようとしたが

「蜘蛛が…っ!蜘蛛…っっ!!!」

美蘭は、半べそをかきながら自分の腕を指差した。


指差した先を見ると、

小指の先ほどもない小さな蜘蛛がいた。

「………こんなに小さいのが、怖いのか?」

「こ…っ、…怖いの!早く取って!お願い、秀吉さん!」


『お願い。』

ただそれだけの言葉が、

美蘭が自分に懇願して発すると、なんと甘く響くことか。


苦しげに、深々とため息をついた秀吉は、

自分の中に芽生えたモヤモヤとした気持ちを弾き飛ばすかのように、ピン!と指で蜘蛛を弾き飛ばした。


「もう大丈夫だぞ。」

「ありがとう…。」

上気した顔で涙目で見上げられ、秀吉はめまいがしそうだった。


(とにかく西へ進むんだ。)

「ほら。」

「…え?」

「その程度でメソメソしてる怪我人…危な過ぎるからな。掴まっとけ。」


とにかく何も考えずに前進しよう。

そう考えた秀吉は、

足元が不安定な、山道を歩くのに虫が嫌いだと言っている目の前の女に手を差し伸べた。


「……ありがと…。」

美蘭はそう言うと、手を借り杖を付きながら立ち上がった。


「しっかり掴まっておけよ?」

秀吉がそう言うと

「うん。」
「…!」


秀吉の左手に美蘭の右腕が絡みついた。

言葉通り、腕に掴まったのだ。


「これでもいい?」

「あ?!…ああっ。勿論だ…っ」
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