第20章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜
謙信は、鶴姫に手を携えて立ち上がった。
「俺は西の山道へ向かう。」
当然のように佐助も立ち上がると、
向かい側に座していた三成も立ち上がった。
「わたくしも参ります。」
更に
「仕方ない。怪我とかしてたら面倒だから。」
そう言って家康が立ち上がると、
「任せたぞ。」
信長ね言葉に見送られ、4人は広間を出て行こうとした。
その4人の背中に
「わたしも……!…行く!」
もう1人の同行希望者の声が聞こえた。
「椿?!」
「父上は軍の指揮がおありでしょうから。わたしが…その……道案内を…。」
「うむ。確かに、この地に詳しい者も必要であろう。上杉殿、徳川殿、石田殿、娘と家臣数名、お連れください。」
振り返っていた4人は、領主である吹田の言葉に頷いた。
そして、先に歩き出した3人を他所に、三成は天使のような笑顔で椿に声をかけた。
「では椿様、参りましょう。」
「…!…ああ…。よろしく…頼む…。」
椿は、真っ赤な顔で立ち上がり、三成とともに広間を後にした。
全員が馬に乗ると、
吹田の家臣たちと椿が先導するかたちで、出発した。
椿は、見届けたいと思った。
謙信が、
あの女のためにどう動くのか。
どんな顔を見せるのか。
あの女は、
いったいどんな女なのか…。
そして何より
一瞬でも不吉なことを想像してしまった自分への戒めと責任のような感情が、
無意識に声を上げさせたのだった。