第18章 甘夏の謌【幸村】
朝まで続いた宴からようやく解放された幸村が、部屋へ戻ろうと、不機嫌なまま渡り廊下に差し掛かると、
愛しい恋人が、自分が可愛がっている山犬と戯れている姿が、視界に飛び込んできた。
「……っ。」
その愛しすぎる姿に、幸村の胸は甘く疼いたが
不機嫌の原因を
…自分が思うほど、自分に会いたいと思っていない様子だった昨日の美蘭を思い出し、
胸に広がった不安や寂しさは、寝不足なのもあり、怒りのような感情をも生み出した。
「……!幸村…!」
鈴が鳴るような、可愛らしい、愛しい声が自分に向けられたが
「………寝る……。」
「……っ!」
わけのわからないイラつきが身体中に溢れ、
昨日されたつれない態度への仕返しのように、冷たい態度で、視線も合わせずに、美蘭の横を通り過ぎた。
ただ、歩みを進める自分の足が床を踏み軋ませている音だけが自分の耳に聞こえる中、
無視をしたくせに、
本当は気になって仕方のない背中が、
そばだてた耳が、
後ろに立ち尽くしている美蘭の様子を無意識に探ってしまう。
明らかに、自分の冷たい態度に傷ついた様子が、
美蘭の落ち込んだ様子が、
感じ取れてしまった幸村。
「………っ。…クソ…!」
振り返ると、泣きそうな癖に、怒ったような顔の恋人。
イライラした様子を隠さずドタバタと美蘭の元に戻ると、華奢な二の腕を掴み、自分の部屋まで連れて行った。
いつもならすぐに文句を言ってくる美蘭が、黙って幸村に引っ張られていた。
文句を言って噛み付かれるよりも、状況は悪い気がして、幸村の胸に焦燥感も募ったが、イライラした気持ちに掻き消され、ただ黙って、自分の部屋へ美蘭を連れてきたのであった。
バン!!!
乱暴に閉めた襖の音がその場に響き渡った。
掴んでいた二の腕を解放すると、
「…んだよ。昨日は俺をあしらっといて…自分がされたら腹立つのかよ?」
本心とはかけ離れた乱暴な言葉が、
幸村の口から、黙りこんでいる美蘭に向かって浴びせられた。