第18章 甘夏の謌【幸村】
「誰に見られようが俺は構わねーよ。」
「…は?!」
「帰り道、おまえに会いたいって…それしか頭になかった。」
「…っ!」
「おまえは違うのかよ?」
幸村の、珍しく素直な言葉とまっすぐな瞳に、美蘭の胸はドキン!と高鳴った。
「……そんなこと…ないけど…っ…。」
真っ赤な顔を更に真っ赤にしてそう言うと
「…っぷ!茹でダコみてェ。」
いつもの空気に沿わない発言を浴びせられたというのに
「今夜…待ってろよ?」
頬を指でするりと撫でられながら、言われたその一言に、
美蘭はゾクリと甘い痺れを感じた。
違うわけがない。
自分も指折り、待ち焦がれていたのだから。
「あ…!でも…っ。」
美蘭は、自分がまだ月のものが終わり切っているか微妙な状態であるのを思い出した。
「…んだよ?まだなんかあんのか?」
幸村と同じ、すぐにでも抱き合いたい気持ちだが、
こんな気持ちで今夜あったら、
心も身体も求め合ってしまうことは必死。
おそらく、今日1日ほとんど出血もなかったし、月のものは、ほぼ終わるとは思うのだが、万が一を思うと…今夜会うのはやめておきたいと思った美蘭。
「…わたし…」
まだ、想いが通じ合って間もない幸村に、本当の事情を話すのを躊躇っていると
「まだ赤備えのままなのか?」
いち早く着替えを済ませた謙信が、通りかかった。
「謙信様。」
「おかえりなさい!お疲れ様でした!」
美蘭が、謙信に帰還を労う声を掛けると
色違いの瞳は、幸村を捉えて言った。
「早く身支度して広間へ来い。」
「謙信様…すいませんが俺は宴には…」
幸村はその誘いを断わろうとしたが
「行ってらっしゃい!」
「…は?!おま…っ!」
美蘭は気づかぬ振りをして、
当然のように笑顔で送り出そうとした。
「なかなか話のわかる女だな。褒めてつかわそう。では今宵、幸村は借り受けるぞ。」
「褒めていただくなんて光栄です。楽しんでくださいね。」
「おい!何を勝手に…っ」
「わたしは、急ぎの縫い物がありますのでこれで…」
そう言って
「美蘭!」
不満そうな幸村に気づかぬ振りをして、
美蘭は2人の元を去った。