第14章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜 恋心 〜 ①
大きめの敷物を広げてはいたものの、大人が5人。
美蘭に導かれた場所に腰を下ろしてみると、それは思ったよりも美蘭に近い位置で、美蘭から薫る、落ち着いた凛とした花のような香の匂いが、ふわりと秀吉の鼻を刺激した。
「…っ…。」
明らかに謙信の好みであろう、落ち着いた色合いの、だが可愛らしい柄の着物を着て、安土にいた頃よりも少し大人びた香りを漂わせている美蘭に、
秀吉は、思わず緊張してしまった。
(昨日は明らさまに女に誘われても何も感じなかっていうのに…俺はいったい…。)
「秀吉さん…あの…」
「…ん?なんだ?」
「あの…温泉で助けてくれて…ありがとう。助けてもらって離れに行かせてもらった時、具合が良くなくてほとんど話せなかったから。」
一糸まとわぬ姿で助け出された時のことを思い出したのか…真っ赤な顔で恥ずかしそうに、だが必死に感謝を伝えてくる姿は、愛らしいことこの上なかった。
「そんなこと…改めて言われるほどのことじゃない。無事で…良かった。…それだけだ。」
秀吉は、無意識に美蘭の柔らかな髪を撫でていた。
「相変わらず、優しいね。ありがとう。」
髪を当然のように秀吉に撫でさせながら浮かべた美蘭の笑顔に、秀吉は、またキュンとなった。
そんな秀吉と美蘭を見ていた三人が、黙っているはすがなかった。
「秀吉さん触り過ぎ。」
「家康様の仰る通りです!」
「次はこの俺が抱っこでもしてやろうか?」
「おまえら!」
三人を収めようと、少し声を大きくした秀吉に、
「あ!秀吉さん…声が大き過ぎ!…ビックリしちゃう!」
美蘭が慌てて言った。
「…ビックリ…しちゃう?…って何がだ?」
眉間に皺を寄せた秀吉が美蘭にそう声をかけた
その時、
美蘭が刺繍を施している布巾が、モゾモゾと動いた。
いや、正式には、
布巾の下…美蘭の膝の上に、何かがいるのだ。
「何が…」
秀吉が布巾の下を覗こうと手を伸ばすと、
「あ!手を出しちゃダメ…!」
美蘭の慌てた声も虚しく、
飛び出してきた白い毛玉が、
秀吉の指に噛み付いた。
「…っ!…いっ、、てェ!」