第14章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜 恋心 〜 ①
支度をして、すぐに上杉の離れを訪ねたが、予想に反して美蘭は留守であった。
「……美蘭は不在か。」
内心、激しく落胆した秀吉。
「もしかしたら…」
すると、三成が心当たりがあると言う。
自分が知らぬことを知っている三成に、チリ…と嫉妬しつつも、美蘭に会いたくて黙ってついて行くと、
離れが立ち並ぶ一角からも、温泉や繁華街からも離れていく三成。
「やはり、こちらだったようですね。」
それは、以前、信長の命令で美蘭の様子を探りに来た政宗と三成が、美蘭と会った草原であった。
ようやく会えた美蘭は、
以前と同様、敷物を敷いて、その上で何か縫い物をしていた。
「…あれ?!秀吉さん♡…三成くんも♡」
秀吉と三成に気づいた美蘭は、
嬉しそうにふわりと可愛らしい笑みを浮かべた。
しかしそれよりも
「…政宗?家康も??」
美蘭の座している敷物に座っていた、早朝から離れを留守にしていた2人に、秀吉は驚いた。
「美蘭が暇な時は此処に来るって言ってたから弁当持って来てみりゃあ…当りだったゼ。」
してやったり…と笑顔の政宗の隣で、
「日当たりがいいから薬草干すのに丁度いいんです。」
もっともらしい理由をつけて、手元で薬草の手入れをしながら、家康は少し頬を赤らめていた。
(こいつら…!!!)
ちゃっかりと抜け駆けしていた政宗と家康に、悔しさを滲ませた秀吉は、思わず2人を睨みつけたが、2人はそれに気づかぬ振りをした。
「秀吉さんも、三成くんも、良かったら休んでいきませんか?みんなでお茶にしようって話してたところなんです。」
美蘭が声をかけると
「ありがとうございます。お邪魔致します。」
素直に敷物に座り始める三成。
「ほんと邪魔なんだけど。」
「まあそう言うな。美味いモンは大勢で食うと、余計に美味くなる。」
「お支度、お手伝い致します!」
「余計な仕事増やすだけでしょ。やめときな。」
わいわい言っている3人を見て微笑んだ美蘭が、秀吉に向き直り、自分の隣をポンポンと叩きながら言った。
「秀吉さんも、早く♡」
隣に座るように誘われただけだというのに
「…っ。」
秀吉は、
胸がドキンと波打った。