第13章 恋知りの謌【謙信】湯治編の番外編 〜佐助の苦悩〜
(むず痒い…。痒すぎる。)
佐助は、謙信と美蘭の、恋仲で深い仲であるというのに、恋する中学生のようなやりとりを、尻が痒くなる思いで見守っていた。
微笑ましくもあり
ツキン…と、
何故か時折、胸が痛くなることもあった。
「では今夜は、隣の部屋に控えてます。」
夜も更けて、就寝の支度が整った頃、謙信と美蘭の寝室の襖が開き、片膝をついて座っている佐助が言った。
「佐助くん?」
「刀が握れない謙信様に、何かがあったら困るからね。今夜は隣の部屋で就寝するから、安心して。」
きょとん、とする美蘭に、佐助は説明するように言った。
「握れないことなどないと申したろう。…まあ、好きにしろ。」
そっけなくかえす謙信であったが、表情は柔らかかった。
「そうなんだね。ありがとう♡ご苦労さまです!」
美蘭は、謙信の妻のごとく、謙信への佐助の配慮と働きに礼を述べつつ、佐助を満面の笑みで労った。
「…っ!…っ…では。」
あまりの美蘭の笑顔の可愛さに、胸をギュッとつかまれたような気持ちになった佐助は、慌てて頭を下げ挨拶をすると、襖を閉めて、美蘭から遠ざかった。
(…あの可愛さは心臓に悪い。)
佐助は、深い深いため息をついた。
佐助は、早速行燈(あんどん)の灯りを吹き消した。
少しでもこちらの灯りが隣の部屋に漏れれば、美蘭が気を使うだろうと思ったからである。
そうした佐助の配慮もあり、
しばらくすると、
謙信と美蘭は、褥の中でいつもの恋人同士の会話を始めた。
「何故そのような浮かぬ顔をしている。」
「だって…わたしのせいで謙信様の手が…。本当にすみません。」
「気に病むなと言ったはずだ。」
「…でも…!っ…んう…チュ…っ…」
「煩い口は塞いでやるに限る。」
「…っ!もうっ!」
「怒っても愛らしいだけだぞ。」
お決まりのむず痒い会話とともに、シュル…という衣摺れの音と、チュ…という口づけの音が聞こえてきた。
「…ん…謙信様ったら…っ…駄目…っ。」
「何故拒む?」
「佐助くんに聞こえちゃう…」
(バッチリ聞こえてるよ。美蘭さん。)
聴いていた佐助の体の中心もムズムズし始めた。