第13章 恋知りの謌【謙信】湯治編の番外編 〜佐助の苦悩〜
「どうですか?痒み、落ち着きましたか?」
持参した塗り薬を謙信の湿疹に塗り、包帯をぐるぐると巻き、手当を終えた美蘭は、主人から褒められるのを待つ忠犬の如く、何処か自信に満ちた期待に満ちた顔で、謙信の返事を待っていた。
「…痒みは少し楽になった。この薬は何だ?」
「良かった♡ユキノシタっていう薬草で作った軟膏だそうです。沢蟹の軟膏じゃなくても、これでもかぶれには効くそうです!」
家康からもらったであろう軟膏を、誇らしげに語る美蘭の姿に、家康への嫉妬心が芽生えた謙信は、
「ほう。薬師も知らぬ軟膏を作れるとは…たいしたものだ。礼を言わねばならぬな。」
あえて家康からだと気づかぬ振りをしたまま、美蘭を困らせるようなことを言ってやる。
「…っ!あ…の方は、さっき…湯治場からお国に帰られるとかで…もう…会えないと思います!」
まさか見通されているとは夢にも思っていない美蘭は、謙信が家康の薬だと知れば嫌がるだろうとの配慮から、必死に取り繕っている。
だが、本当に何処の誰が作ったのかわからぬ薬なら、例え美蘭が持ってきたものでもとてもつけられない。
それは、いつ何時命を狙われるかわからぬ戦国の世では当たり前のことである。
家康の作った…という点は正直気に入らないが、奴らが美蘭のためにも自分に毒を盛るとは思えないため、謙信はおとなしく受け入れた。
ともあれ
いろいろな感情は抜きにして
自分のために必死な美蘭は愛らしい。
大目に見てやろうと思った謙信であったのだが。
「…そうか。それは残念だ。………。」
自分の目聡さを呪った謙信は、
ため息をつくと
美蘭に軽くチュ…と口付けた。
「…っ??!け…んしん様っ?!」
佐助の前で突然唇を奪われ、美蘭は取り乱した。
「…甘いな。みたらしか。」
「…っ!!!」
美蘭は赤面して、
失礼します、とその場から水場に走り去った。
薬を待っている間、政宗にご馳走になったみたらし団子が、口の周りについていたのだろう。
帰り際、秀吉が布巾を持って何か叫んでいた理由が、今わかった美蘭であった。