第12章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜おしおき〜
ともに意識を飛ばしたのか
はたまた疲れ果て眠ってしまったのか。
自分でさえも事の次第がわからぬが、
謙信が目覚めると、生まれたままの姿の自分が、
生まれたままの姿の美蘭を抱きしめていた。
腕の中で寝息をたてている美蘭は、いつもの愛らしい、ともすれば、少し幼く見えるような寝姿であった。
(結局俺の不満は全て言えず終いであったな…。)
せっかくの機会に、織田の武将達との関わりに関する全ての不満を並べて虐めてやるつもりでいた謙信だったが、美蘭のあまりの妖艶さに、自分が飲み込まれてしまった。
(仕置きにはほど遠かったか…?)
だが、
本音はぶつけ合えた夜であった…と、謙信は思った。
美蘭は、伊勢姫の件で長年心を閉ざしてきた謙信を気遣うがあまり、謙信を思うがあまり、無意識に自分が謙信を癒すことばかり考えて来たのであろう。
だから、椿への小さな嫉妬すら、言葉に出来なかったのだ。
(これからは変な気を回すことは許さんぞ。)
「…全てこの俺にさらけ出せ。』
思わず願望とも命令ともつかぬ本音を口にしながら
前髪に手を差し込み、愛しい額に口付けると
「……ん…。…?!…けんしん…さま?』
美蘭が目覚めた。
「目覚めたか。』
「…おはようございます?…あれ!?きゃ…!何も着てない!!」
採光ですでに明るい部屋の中で生まれたままの姿でいることに羞恥した美蘭は、身体を丸くして必死に胸や尻を隠そうとした。
「何を今更恥ずかしがっている。」
「だってもう明るいのにこんな格好…っ!」
「昨夜の、全てをさらけ出し、欲しいものを素直に強請ってきた、いやらしくて愛らしいおまえは何処へ行ってたのだ?」
そう言って、謙信は、美蘭の耳の中に舌を這わせた。
「あ!…っんっ!」
そしてそのまま頬から首へと口付けながら続けた。
「昨夜のいやらしく乱れたおまえを知るのはこの俺だけだ。…そう思うと堪らなく気分が良い。」
「…!謙信…様…。」
嬉しそうに細められた色違いの瞳に見つめられ、
美蘭は
胸がきゅんと高鳴った。