第12章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜おしおき〜
謙信が、美蘭のために湯殿に用意させておいた、花々で作らせた、香り芳しい香油を、美蘭の身体にトロリと流し掛け、
トロリとした感触の、謙信の大きな手のひらで、美蘭の身体を隅々まで、優しく撫でるように洗っていった。
「…っ。」
敏感な部分を手のひらが撫でると、素直な身体は、その都度、その都度、ピクンと反応をする。
だが、謙信から椿に見惚れた理由を聞くつもりの美蘭は、不安げな、だが何処か挑戦的な視線を謙信に向けて、心地よさと快楽に抗っていた。
(…こういう表情もするのか。これもまた愛らしい。)
謙信は、美蘭の普段なかなか見れない表情を楽しんでいた。
次の言葉をなかなか聞かせてくれず、身体に這わす手を止めない謙信を、美蘭は不安げに見つめていると
しばらくして、
謙信は、話し出した。
「椿が…まだ下の毛も生え揃わぬ程幼い身体で、あんなことを言った理由はわかっていた。急に持ち上った見知らぬ人物との見合い話を不安に思ったからだ。」
「…お見合い…?」
「ああ。ずっと剣術一筋できたのだが、母上がそろそろ…と、少し強引に話を進めていたことを聞いて知っていた。だから、椿が裸で何を申そうが…親子の諍いに巻き込まれたとしか思わなかった。」
「…!……本当…ですか?」
「ああ。あの後吹田殿の御殿まで送って、吹田殿に本人とよく話し合うように助言してやってきたのだ。おまえが心配しているようなことは、何もない。」
「…っ!!!」
美蘭は、自分の胸の内が、全て謙信に見透かされていたことに驚いた。
「俺は…おまえに随分と信用がないのだな?」
色違いの瞳にじっと見つめられ、
指先で顎を上に向けさせられた美蘭は、
「…っ…違…っ。」
安堵に胸を撫で下ろしつつ、
謙信への愛情が故とはいえ、
謙信を信じられなかった自分に自己嫌悪し、
更に謙信には申し訳ない気持ちでいっぱいになった。