第12章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜おしおき〜
信玄たちが去り、離れの中は静まり返った。
信玄も幸村も佐助も、皆、自分を心配してくれていたのだとわかった美蘭は、皆に感謝と申し訳なさを感じながら、
謙信との間に流れている気まずい空気から逃れたい気持ちで、
「…休みましょうか?お着替えを…」
謙信の着替えをいつものように手伝おうと、近づくと
パシ!と手首を掴まれ
「その前に湯だ。」
湯殿に向かって手を引かれ歩き出された。
「…でも…っ。」
帰り際、家康に念のため明日も温泉は入らぬように…と言われたのが、美蘭の脳裏に浮かび、戸惑った。
しかし
「…汗を流すだけだ。」
美蘭の心配を察してか発せられた一言に、美蘭は軽く胸を撫で下ろすと
「あ…はい。わかりました。」
大人しく湯殿に連れていかれた。
謙信は、敵の離れを訪れた身体についた見えない汚れを洗い流したかった。
それは自分だけでなく
敵将たちに愛でられた愛しい女も、であった。
湯殿に着くと美蘭は謙信にあっと言う間に襦袢を脱がされ、内風呂に引き入れられた。
そして見えない緊迫した空気が流れる中、
美蘭は謙信の背中を流し始めた。
「…美蘭。」
「…はい?」
静かに謙信の背中にお湯をかけ流しながら答えると
謙信が淡々とした声の調子で呟くように言った。
「椿の、何が気に障ったのだ。」
「……!」
美蘭は、ピクリと肩を揺らした。
「織田の奴等には話せて、この俺には申せぬことか?」
「…!そんなこと…っ!」
「ならば申せ。」
「……っ。」
振り返らないから表情は見えないのだったが、静かな言葉の調子ではあるが謙信から放たれる気配から、これ以上誤魔化しや言い逃れは叶いそうもない、と美蘭は悟った。
「わたしの知らない謙信様を知っている椿さんが、謙信様の近くにいるのが…嫌というか…気になって…心配でした。」
美蘭は観念して本音を話出した。
「……っ。彼奴はただの…」
「わかっています。謙信様に邪な気持ちが一切ないことは。でも…謙信様の側に…女の子がいることが嫌でした。」
「…!」