第7章 囚われの謌【光秀】黒ルート
只事ではない雰囲気を察した光秀は、
「すまんが、今日は帰ってくれ。」
女にそう言った。
「…っなっ!!!」
「お見送りしろ。」
「はっ。」
不満をあらわにした女は、
家臣に宥められながら連れ出されて行った。
2人になり、
シンと静まり返った部屋。
「……いったいどうした。」
淡々とそう言った光秀の内心は、久々に間近に見る美蘭に、呼吸が苦しいほどに締め付けられたていた。
「……責任とって下さい。」
美蘭はポツリと呟いた。
「…?」
「あの夜から…頭から離れないんです…。」
震える声は、また呟いた。
「…何を…」
取り乱している様子の美蘭を落ち着かせようと光秀が口を開いたその時、
美蘭の叫びが、光秀の言葉を掻き消した。
「ずっと…光秀さんのことで頭がいっぱいなんです!」
「…??!」
(何を…言っている?)
光秀の心臓がドクリと音を立てた。
「光秀さんにとっては、ただの戯れだったかも知れませんけど…。こんな気持ちで信長様に愛されるなんてできないし…っ…。」
こいつは…
俺で頭がいっぱいだと言いに来たのか?
「信長様ともさよならして来ました。天主からも…追い出されました…っ。」
俺に受け入れられる保証もないのに
天下人の寵愛を放棄してきたというのか?
光秀の全身を、寒気にも似た感覚が走り抜けた。
「光秀さんが悪戯なんかしたせいです!どうしてくれるんですかっ!!!」
真っ赤な顔で怒りに満ちた表情で、
肩を震わせて
ボロボロと涙を流す美蘭。
身体一つで御殿に乗り込んできたこの目の前のちっぽけな女が愛し過ぎて
「……お前という女は…っ。」
光秀は、美蘭をかき抱いた。
「…っ…!」
抱き締めた瞬間、
ふわりと広がった美蘭の香りに目が眩んだ。
「悪戯などではない。」
真っ直ぐ過ぎて
ときに眩しすぎるこの馬鹿な女を
「俺は…お前を愛している…。」