第7章 囚われの謌【光秀】黒ルート
それからひと月ばかりが過ぎた。
「ねぇ…早く…。」
光秀は今日も自分の御殿に女を引き入れていた。
あれから、光秀に対する美蘭の態度は、予想通りの余所余所しいモノであった。
予想外だったのは、自分の心。
美蘭への想いに諦めがつくような気がしていたのに、
むしろその逆で。
心も体も
美蘭を求める気持ちは増大した。
そんなやるせない想いや衝動をおさめたくて、繰り返し女を抱いてはみるが、満足は得られない…のくり返し。
…美蘭以外の女では意味がない。
それはわかっているが、
それこそが叶わない現実。
今日も軍議で信長と美蘭の睦まじい様子を見て苛々を募らせた光秀は、八つ当たりのように女を抱きたくなり、自分の御殿に女を呼んだ。
「着物を脱げ。」
光秀は冷たい目で女に言った。
「随分な扱いですのね。」
欲を満たしたいだけで、女には一切興味がない。
余計な戯れはする気もない。
「気に入らないのなら、出て行け。」
「…っ。」
女は自分で自分の帯に手をかけた。
「恐れ入ります、光秀様。」
その時、襖の向こうから家臣の声が聞こえた。
「何だ。」
「美蘭様が訪ねていらしたのですが…」
「…っ!」
光秀は美蘭の名前を聞いただけで、心臓を手掴みされたように、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「取り込み中だ。明日にでも出直させろ。」
こんな夜更けに世話役の仕事だろうか?
何にせよ、こんな状態で美蘭になど会えない。
「それが…美蘭様のご様子が…」
家臣とて、光秀に女が訪ねて来ていることくらい把握している。
それでもなかなか引かないその様子に、美蘭に何かあったのだろうか?と、心配がよぎり眉間に皺を寄せた。
その時
「…あ!美蘭様!いけません!」
家臣が止めるのも聞かず、襖を開けはなったのは美蘭。
「…きゃあっ!」
脱ぎかけの着物を手繰り寄せて悲鳴をあげる女と
「光秀様、申し訳ございません!」
美蘭を止められなかったことを詫びる家臣。
そこに立っていた美蘭の顔は
涙も乾かぬ、泣き顔。
光秀の胸は、ドクリと音を立てた。