第11章 優しい守り番
「そんな顔をするな。ここに来れたのは不幸中の幸いだ」
「どういうこと?」
彼はフラフラとした足取りで泉に近付く。
そして手で泉の水を救ったかと思えばそれを口に持っていく。
「ウィル…?」
「これで、もう大丈夫だ」
「いや、さすがに無理がある…って、えっ?」
彼の体の傷はスーッと引いていき元の綺麗な肌に戻っていく。
その光景に思わず驚いてしまう。
「け、怪我が…なんでっ?」
「ここの泉は少し特殊でな…。俺の一族はこれを守って来たんだ」
「そう、だったんだ…」
よく見れば泉は月明かりに照らされキラキラと輝いていた。
「しかし、ここには一際強い結界を張っているはずなんだが…何故お前は…」
そう言って不思議そうに私を見ている。
「夢中だったから分かんない…。でもここ、なんだかあったかい感じがする」
さっきから感じる暖かさに居心地の良さを覚える。
どこかで感じたことがあるような…。
「この感じまさか…」
「どうした?」
私は一つの仮説に辿り着く。
いや、何故もっと早く気付かなかったのだろうか?
「この泉は…イノセンス…?」
「イノセンス…?」
「うん。私たちが探してる物だと思う。多分…」
調べてみない事にはまだ分からないが…。
しかし、私は失言したことに気付き慌てて彼の方を見る。
「お前はこれが目的だったのか…」
少し複雑そうな顔をした彼がそこにはいた。
それもその筈だ。ずっと守って来た物を私は奪おうとしているのだから。
「ごめん。説明させて…」
私は彼に自分がエクソシストだという事、これがイノセンスかもしれないということを説明した。
彼は口を挟むでもなく黙って私の説明を聞いてくれた。