第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
シャワーの音が止まって、
洗面所からドライヤーの音がする。
…もうすぐ、綾ちゃん、出てくる。
ええと、ええと、どーしよう?
あ、なんか、とりあえず、
冷たい水とか飲ませて落ち着かせよう。
冷蔵庫を開けると、
料理上手な綾ちゃんらしくなく、
中は、スカスカ。
…俺が心配することじゃねぇけど、
ちゃんと、食ってるのかな?
飲み物ばかりがたくさん冷えてる中から
水を一本、取り出そうとしたら、
その並びの中に、
なぜか、コーラも一本、あった。
ちょうど綾ちゃんが
洗面所から出てくる。
『気分、大丈夫?ほら、水、飲んで。』
『大丈夫、すっきりした。ありがと。』
『冷蔵庫のコーラ、俺、飲んでいい?』
『あ、もちろん。
それ、この間、いっちゃんと及川君が
ハンバーグ食べてった日に
買っておいた分だから。
…またここにいっちゃんが
来てくれるとは思ってなかったけど、
飲まずに取っておいてよかった。』
パシッ。
プシュッ。
水とコーラを開けて、
お互い、ゴクリと一口。
…そして、沈黙。
俺からは、話さない。
綾ちゃんが話したいことだけ、聞く。
綾ちゃんに聞かれたことだけ、話す。
大人に囲まれて育った俺は、
なんとなく、経験で、知ってるんだ。
普通、大人は子供の前では、
大概のことは、平気な顔をして隠す。
日頃は飲まない人が
酒の力を借りたい時や、
日頃はしっかりしてる人が
誰かに頼りたそうな時は、
相当、弱ってる、ってこと。
"本当のこと"を聞き出すより、
"話したいこと"だけ聞いてあげる方が、
どうやらスッキリするらしい、ということ。
俺、高校生なんだけど。
酒も飲まないんだけど。
大人の裏側には、
一人一人に小さなドラマがあって、
大人になっても
悩んだり我慢してる姿を
小さい頃から当たり前に見てきた。
なんてったって、
飲み屋の息子、あの母さんの息子だ。
こういう場は、案外、嫌いじゃない。
…"高校生の爽やかな交際"に
あんまり喜びや興奮を感じないのは、
そりゃ、当たり前かもな(苦笑)
そんなことを考えていたら、
ようやく綾ちゃんが、口を開いた。