第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
"コートの中では焦った方が負け"
『そりゃ、経験あるけど。
でも、それとこれとは違うだろー?』
『一緒、一緒!』
『…そもそもこの場合、どーなったら勝ちだ?』
『仕掛けてるまっつんからしたら、
まぁ、思い通りにモノゴトが動けば、
…ってことじゃない?
彼女とキレイに別れて、
綾さんとしっぽりくっつくこと。』
『なんか、俺、ヤなヤツみたいだな…』
『まだそんなこと言ってんの?
キレイごといってちゃダメだって。
だーいじょぶ。
このまま待ってれば、必ずまっつん、
彼女にフラれるから!』
『…フラれるのは、勝ち?』
『そうそう、ほら、
試合に負けて勝負に勝つ、的な?』
『…及川がいつもフラれてんのは、
そういうことなのか…』
『そうだよー!
だってフツーにしてたら
俺みたいな完璧なスターが
フラれるわけないじゃんっ!
女の子を傷つけないように、という
スターならではの、我が身を削った
優しさの結果の積み重ねなんだよ!』
説得力があるようなないような、
そんな名(迷?!)セリフを言ったところで
授業5分前の予鈴がなる。
『とにかく焦らず待つ!じゃーねっ!』
去っていく及川の背中を見ながら、
つい、ため息をついてしまう。
『そんな、うまくいくもんかな…』
待っててなんとかなるものなら、
そりゃ、待つけど。
"一緒の塾に通いたい"とまで言ってた
彼女の想い。
"もう、家にも店にも来るな"と言った
綾ちゃんの想い。
どっちも、
それぞれの立場と気持ちで
考え抜いた上での言葉のはずで、
それが、
待ってるだけでなんとかなる、なんて
そんな都合のいい展開につながるか?
及川の"都合の良すぎる"言葉を
簡単に信じる気にはなれなかったけど。