第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
"焦るな"
"流れに逆らうな"
自力でどうにも出来ない以上、
及川のアドバイスに従うしかない。
翌日から、
何とも勝手の悪い日々が始まった。
昼飯は、ほぼ毎日、一緒に食った。
でも、お互い、
"一緒にいたくて"というより、
"自分からは断る理由がない"
という感じ、な気がする。
話が弾まないわけじゃないけど、
頑張って話を弾ませてる感じで
45分間の昼休みが過ぎると
ちょっとホッとする。
帰りも、
一緒に帰ったり帰らなかったり、
それは今まで通りのはずなのに、
別にやましいこととか全然なくて
フツーに及川達と寄り道する、
とかいう理由なのに、
何か言い出しづらかったり、
彼女が
"先生の手伝いを頼まれたから"
とか言うのを聞くと
"ホントは俺を避けてんじゃねーの?"
とか疑ってみたり。
こんなに息苦しいのに
とりたてて"彼女の何がイヤ"とかいう
明確な理由があるわけでもないから
やっぱり俺からは
別れなんか切り出せなくて、
そして、
出入り禁止を言い渡されたあの日から
綾ちゃんとは全然会ってなくて、
…"流れに逆らってない"はずなのに、
溺れそうなくらい息苦しいのは何でだ?
『及川…俺、窒息しそうなんだけど。』
休み時間、バタバタやってきて
俺のノートを写す及川に愚痴ってしまう。
『え?どーしたの?飴でも飲み込んじゃった?』
顔もあげず、手も止めず、
適当な感じで答える及川。
『子どもじゃねぇし!』
『わかってるって(笑)
すぐ写し終わるから、もーちょい待って…』
俺の返事には顔もあげないくせに、
廊下を通る女子から
『及川く~ん!』と声がかかると
イチイチ笑顔で手を振ってる。
今まではこういうのも
チャラい仕草にしか見えなかったけど
今、
自分がたった二人の女性への気持ちで
四苦八苦してることを思うと、
これはこれでスゴい才能だと
感心したりするわけで…
『ふぅ、間に合った!
やっぱノートはまっつんに限る!
岩ちゃんもさぁ、
ちゃんとやって来てるんだけど、
字が男前すぎて読みづらいんだよねぇ…』
勝手なことを言いながら
パタン、カチャン、と
勉強道具を片付けて、及川は言った。
『ねぇ、まっつん。全部、試合と一緒。
コートの中では、焦った方が負け、って
まっつんも、充分、経験、あるじゃん?』
