第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『ねぇ、センパイ、怒ってる?』
『別に、怒ってねぇよ…
とりあえず、昼飯、食おうぜ。』
『…うん。』
隣に並んで、
ゴソゴソと弁当を取り出し、
モグモグと食べる。
だいたいいつも、
彼女が喋って、俺は、聞き役。
だから、彼女が喋らないと、
空気は、重い、わけで。
なんか、言わないと。
『…昨日、LINE、
スルーしたまんまにして、ごめん。』
『いいよー、遅くまで、塾だったんだもんね。』
ギクリ。
『ん、ぅん。なーんか、疲れて、
帰ったらすぐ爆睡したからさぁ…』
『受験前の追い込みだもんね、やっぱ、大変?』
『だなぁ。』
…自分で持ち出した話題なのに、
小さな嘘を重ねるのが、辛い。
『何か役に立ちたいけど、
私じゃ何にもしてあげられないし…』
『いやいや、気持ちだけでも嬉しいから。』
…弁当の味がしない。俺って案外、小心者…
『だからね、私、考えたんだけど、』
『ん?』
『私も同じ塾に行こうかな、って。』
『…え?!』
そ、それは、困る!
だって、俺、あの塾に、行ってねぇし!
『それ、マジ?』
俺の突っ込み気味の返事を
"喜び"だと思ったのか、
彼女は得意気に言った。
『もともと親には"塾に行け"って言われててぇ。
あたしも、二年になって数学、ヤバいし。
でも今までは、
センパイと帰ったりしたかったから、
ヤダヤダって逃げまくってたけど、
センパイと同じ塾ならいいかな、って。
そしたらもっと一緒にいられるでしょ?
ね、我ながらいい考え~!』
『いや、でも俺、どのみち受験までだから、
あとちょっとしか、あの塾、行かねぇよ?』
『いいよ、
センパイとの思い出がある塾なら、
私、来年も頑張れそうだし。』
『そんな理由で、塾、選ぶなよ。』
『…ダメ?』
『ダメだろ!』
…なんで、こーなるんだ?
昨日、俺は、ただ、
綾ちゃんが作るハンバーグを
食べたかっただけなのに。
及川が来て、
なぜだか一緒にハンバーグ食って、
塾に行ってる、なんて、嘘ついてまで
わざわざもう1度、
綾ちゃんに会いに行ったのに、
イイとこで、結局、セックスもせず…
そして、今朝は及川とケンカして、
今、こんなピンチに立たされて…
すべての発端は、
『な、1個、聞きたいんだけど。』