第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『ねぇ綾ちゃん、
及川に会えて、嬉しかった?』
洗った食器を拭く後ろ姿に話しかける。
『びっくりするよねぇ、
だってニュースとかで見る人気者が
こーんな狭くて古い部屋で
私の作ったハンバーグ食べてるなんて。』
『そっか…じゃあ、学生証、
及川に自分で取りに来てほしかった?』
『あれ?いっちゃん、』
振り向いた顔。
『声が、怒ってるよ?なんで?』
『ね、及川に来てほしかった?』
『どっちでもいいに決まってるじゃない。
いっちゃんでも、及川君でも。』
『…なんか、悔しいんだけど。
今日、たまたま会った及川と、俺、
どっちでもいいんだ。』
『あら、ごめん、じゃ、いっちゃん。
いっちゃんが取りに来てくれてよかった。』
『じゃあ、ってさ…』
『ごめんごめん、ごめんね。』
…俺、イライラしてんのに、
綾ちゃんはニコニコしてて、
それがさらに腹が立つ。
『なんで、笑ってんの?』
『え?私、笑ってる?』
『すっげー、ニコニコしてっけど?』
『だって、なんか、嬉しいんだもん。
そんな風に言ってもらうと、
ちょっと、嫉妬してもらってるみたいで。
こんな若い男の子に、ねぇ。
なんだか、モテるいい女みたいな気分。』
『…男の子、って、言うなよ。』
『だって…』
『まだ俺のこと、子どもにしか見えない?』
『及川君もいっちゃんも、高校生だもん。』
…ぁぁ、くそっ、
『及川と俺を一緒にすんの、
止めてくんないかな?それにさ、』
沸騰してる。
脳ミソも、筋肉も、血液も。
『高校生だって、男だよ。
そりゃ、歳だけなら息子みたいだろうけど、
体はもう、充分、男だ、って、
綾ちゃんも知ってるだろ?
…この間、セックス、したじゃん。』
パタッ。
及川の学生証が、手から落ちる。
拾わない。
なんでかっていえば、
今から、綾ちゃんを、
この手で、抱き締めるから。
黙ってる綾ちゃんに
ガツガツと近づいていく。
手にしてる洗い立ての皿を奪って
そのまま、流しの横に置きながら、
もう片方の手で抱き締める…荒く。
『…いっちゃん、やめなさい…』
『この間、綾ちゃん、言ったよね。
"私に無理矢理犯されたと思え"って。
俺は悪くない、悪いのは私、って。』
『…言った、ね…』