第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
急に大きな声を出し、
目を大きく見開いた及川。
俺の方がびっくりする。
『な、なんだよ!?』
『今夜まっつんは、アリバイ完璧なんだよ?
こんなチャンス、無駄にするつもり?』
『…は?』
『今から行っておいでよ、綾さんち。』
『え?今から?一人で?
…んなこと言っても、もう、用もねぇし…』
『用なんか、いる?!
"君に会いたかったから来ちゃった"で
充分じゃん!』
『…そんなセリフ、
お前は簡単に言えるだろーけど…』
俺、そんなこと、なかなか言えない。
また拒絶されたら、どうしたらいいか…
『ホーント、まっつんって受け身だねぇ。
そこがまた、レディが安心して心を開く
秘訣なんだろーけど…』
ニヤリ、と笑った及川。
わざとらしく、
自分のカバンを探る仕草をし始める。
『あれ、俺の学生証がないなぁ、
明日、持ち物検査の日なのに、
ないとヤバいよ、困ったなぁ。』
…何の芝居だ…
『下手な芝居で、何、企んでんだよ?』
『あ、そうだ!
きっと綾さんちに忘れた来たんだ!
飯食ったちゃぶ台の下あたりにきっと…
まっつん、頼むよ、取ってきて!
明日、学校でもらえればいいから。
ね、キャプテンを助けると思ってさぁ。』
コイツ、わざと忘れてきたのか?!
もしそうだとしたら…
『及川、お前、やっぱすげぇな。』
『言われなくても知ってるヨ☆』
キラリン、と、
音をたてながら星が飛び出しそうな
華麗なウインクをしながら
Vサインをしてる及川。
『健闘を祈ってる!
でも、明日、学校では
色ボケした顔、しちゃいけないよ。
彼女の前では彼女を全力で愛すこと!』
そうやって言い残し、
及川は駅へ向かって歩き始めた。
『…及川、』
『ん?』
『お前、最高のキャプテンだな。』
振り向いた表情は、薄暗くて見えないけど。
『お礼なんかいらないよ。
…でもどうしても、って言うなら、
一個だけ、頼みたいことあるけど。』
『なんだよ?』
きっと、あの爽やかな笑顔で。
『綾さんとうまくいったら、
俺も交ぜてさんぴぃさせて。』
『…やっぱ、お前、最低だな(笑)』
『だよね、言われなくても知ってる(笑)』
手を振って遠ざかる及川の背中。
俺も、反対側へ向かって歩き出す。
…及川があげてくれたトスを、決めに。